足利事件(※注1)や袴田事件(※注2)などの冤罪事件では、その被害者を「さん付け」で記載する報道は珍しくない。だが、それはあくまで冤罪であることが確定、ないしは極めて濃厚になってからの話であり、公判中の呼称は「被告」だ。
法廷で白黒が争われている最中から「さん付け」を通してきた同誌には、片山被告が無罪であるという確証があったのか。
同誌が、片山被告擁護になったのには、まず弁護団の存在が大きいだろう。佐藤博史弁護士は、前述の「足利事件」で無罪を勝ち取った“冤罪弁護請負人”だ。その佐藤弁護士は、毎週のように同誌にコメントを寄せている。
〈弁護人になるまで、片山(祐輔)さんが「真犯人」であると私も考えていました。しかし、実際に接し、その肉声を聞いて、今は違うと確信しています〉(2013号3月9日号)
冤罪事件のスペシャリストのコメントが、記事構成の大きな根拠となっていたことは想像に難くない。後押しはもうひとつあった。世間の空気である。
厚生労働省の村木厚子事務次官が、局長時代に虚偽公文書作成・同行使の疑いで逮捕・起訴されるという事件が2009年にあった。同事件では、逮捕した検察側が証拠を改 していたという事実が明るみに出て、担当検事が証拠隠滅の容疑で逮捕されるに至った。常軌を逸した検察の行為は、国民的な検察不信を蔓延させた。
そこから生まれたのが、“検察を叩けば読者の支持を得られる”という構造だ。
【※注1】1990年、栃木県足利市で発生した女児の殺人事件。行方不明現場のパチンコ店の常連だった菅家利和さんがDNA鑑定によって逮捕されたが、その鑑定自体に問題があったことが発覚し、2009年6月に再審決定。
【※注2】1966年に静岡県清水市で発生した強盗殺人・放火事件。放火先の従業員だった袴田巌さんが逮捕されたが、有力な証拠とされた衣類をDNA鑑定したところ、袴田さんのものでないと判明し、2013年3月に再審決定。
※週刊ポスト2014年6月6日号