そうした意見には、「薬剤師と患者さんとが直接顔を合わせてよく話し合い、薬剤師が患者さんの状態を五感を用いて判断し、販売する必要がある」(2013年10月29日の産業競争力会議分科会で紹介された「五十嵐座長メッセージ」)という反論が出てくる。インターネットでは自己申告させることはできるが、患者が正確に自己申告できるとは限らない。だから薬剤師が「五感」を用いて本人の状況を直接感知することが重要……ということだ。
ただ、先ほどの鼻炎スプレーの27項目を見ても、「五感」を用いないと判断できない項目がどれなのか、さっぱりわからない。「皮膚の発疹」は対面なら発見できるかもしれないが、薬局で全身チェックできるわけでもない。強いて言えば、「鼻汁の色」くらいだが、それも本人が自分で十分識別できそうなものだ。本当にそのためにインターネット販売を禁止するほどの意味があるのか甚だ疑問だ。
ちなみにこの「五感で判断が必要」という主張は、これまでの議論の経過でたびたび出てきた。筆者は従来から「薬局に家族が薬を買いに来たら、五感での判断はできない。家族が買いに来ることは禁止されていないのだから、論理矛盾だ」と反論してきた。6月12日施行の改正法では、この反論を封じようということなのか、家族が買いに来ることまで禁止してしまった。すべて「鼻汁の色」のチェックのため……というのが本当に合理的なのだろうか。
※原英史・著『日本人を縛りつける役人の掟』(小学館)より