「深作欣二監督が脂の乗り切っている頃で、熱気がありました。祇園で朝まで飲んで、それで『お前ら寝るな』って言うんです。なぜか聞いたら『明日の撮影は目が赤い方がいいんだ』って言うんですよ。多分、2か月は寝てないですよ。それでも平気なくらい集中していました。だから画にも力が出てくる。監督さんというのはスタッフ・キャストを引っ張っていく現場監督ですから、パワーが必要なんです。

 最初で『坂井の鉄ちゃん』という役をもらって、それでいろいろと考えて。でも死んじゃう役だから次に出るとは思いませんでした。そしたらまた監督に呼ばれて、また違うことを考えて、また死んで、また呼ばれて違うことを考えました。

 台本を読んで『イイ役があるな』と思ってたらテレビのポッと出の俳優にその役がいったことがありました。でも、これが川谷拓三、室田日出男、志賀勝の中に入ったら消えて霞んでしまう。出番が多ければいいってわけじゃないんですよ。たとえ1シーンでも、ちゃんと演じられるかどうか。それは俳優としてのホンの読み方にかかっていると思います。

 僕は台本を読む時、自分の役は読みません。まずはストーリーだけ何回も集中して読みます。確実に言えるのは、イイ本はイイ役がいくつもある。ちょっとしか出てなくてもね。『ああ、これはイイ本だ。これなら出たい』と思ってから自分の役を読みます。自分の役なんて、もう二の次なんですよ」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)ほか。

※週刊ポスト2014年8月29日号

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