今年の夏も各地の花火大会に多くの人たちが繰り出していた。見物客には女性だけでなく男性の浴衣姿も目立つようになったが、最近はさらに変化がみられる。カラフルな甚平に、下駄でなく身軽なクロックスやサンダルをあわせて涼しげに楽しむ若い女性が増えている。
「雑誌『セブンティーン』が夏に開くファッションショーで専属モデルの人たちがいっせいに膝上丈のミニスカ浴衣を着た数年前、花火大会でもミニスカ浴衣の女の子が増えました。でも、今年の隅田川花火大会へ友だちと一緒に行ったら、甚平を着ている女の子が多くて驚きました。ミニスカでも浴衣じゃ歩きにくいし、道路に座ったりもできない。人ごみの中を歩くには甚平のほうが便利だと思いました」(都内の女子大学生)
衣料品チェーンストアを展開する株式会社しまむらでも、レディス甚平は夏物商品群のなかで定番の人気商品になっている。
「2000年にギャル系ブランドなどでミニ浴衣とともにレディス甚平が出現し始め、約7年前から市場に広まっていきました。浴衣と違って手軽に着られますから、花火大会はもちろん、町内会の盆踊りやお祭り、最近はルームウェアとして使用されているようです。外国人のお客様が、日本旅行のお土産に購入されているという話も聞きます」(株式会社しまむら・広報宣伝部担当者)
しかし、甚平といえばもともと子どもと男性向けしかないものだった。いつから成人女性でも着られるサイズやデザインの甚平が普及したのか。浴衣の取扱数量日本一の浜松市にある浜松織物卸商協同組合元理事長の小栗俊彦さんによれば、浴衣を生産した残り布の有効活用方法のひとつとして十数年前に始まったという。
「もともと、浴衣をつくった残りの布は巾着袋にして売っていました。ところが、製造拠点を置いていた中国で工賃が徐々に上がり小物では釣り合わなくなってしまった。もう少し大きなものをと試しに女性用甚平を5000枚つくったんです。成人女性サイズの甚平が欲しいといった要望もないのにつくってみたはよいのですが、身内である女性社員からも『着てみたい』という声がありませんでした(苦笑)。
さて、どこへ売ろうかと考えていたら取り扱ってくれる量販店がひとつあり、その後、徐々に販売先も広がりました。渋谷のある衣料品店では1店舗だけで500着も売れるなどして、若い女性向けに急激に普及しました。甚平だと履き物は何でもかまわないので手軽ですし、海外旅行へも持参しやすい。帯などとセットで買う浴衣に比べて価格も5千円未満が多く安いから、慣れない中高生や大学生くらいの若い方にはちょうどよいのでしょう」
若い女性を中心に好まれている甚平なら人気の柄はギャル風の派手なものが中心なのかと思うと、徐々に和柄、古典柄が好まれるようになってきている。
「ヒョウ、水玉、ゼブラなどが柄では目立っていましたが、最近では和柄が増えています。黒地にピンクや紫を使った派手な柄が多かったのですが、少しずつ淡い地色に朝顔やユリ、金魚や牡丹など古典柄、涼しげな柄と色が増えています」(前出・株式会社しまむら広報宣伝部担当者)
「浴衣の布地の残りを使っているので、基本的に色柄は浴衣の流行と同じです。景気が悪かったころは浴衣は黒地が流行したので、女性向けの甚平も黒地にオレンジや赤の柄をプリントしたものが大半でした。最近は、白地に紺や黒の模様でまとめてポイントに赤が入った、和柄の落ち着いたものが増えています」(前出・小栗さん)
子どもと大人、性別ごとに着るものが異なるのが当たり前だったのは過去のこと。今では親子や家族で共通のものをおそろいで着たいという人が少なくない。年齢や性別に関わらず同じ色柄の同じものを着るのが当たり前なら、ユニセックスな着物であるレディス甚平が人気を集めるのも不思議はなさそうだ。