国内

日本の交渉力 アメリカ頼みで金バラ撒きしかできぬのが現状

 邦人誘拐・人質事件はこれまで何度も起きた。その多くで日本政府は血税から「身代金」をバラ撒き、「現地国」に責任を擦り付けてきた。それが次なるテロを招き、テロリストからナメられ、国際社会で信頼を失う悪循環を繰り返してきたのである。

 政府が身代金をコッソリ支払っていたことが後に明らかになった事例としては、「キルギス日本人誘拐事件」(1999年)が挙げられる。

 中央アジアのキルギス共和国で日本人技師4人がイスラム系武装勢力に拉致され、約2か月後に無事解放された事件では、官房長官の青木幹雄氏が「(身代金は)支払っていない」と言い張った。

 だが、事件の6年後にキルギスで政変が起きて大統領が失脚すると、日本政府からキルギス政府に300万ドル(約3億円)が渡されていたこと、しかもそれが武装勢力には渡らず、ほとんどが大統領側近らの懐に入っていたことが明らかになった。

 この事件では、官房副長官として救出作戦に関わった鈴木宗男氏が重大な証言をしている。月刊誌への寄稿の中で、身代金が300万ドルだったことを明かしたうえ、外交機密費から捻出した資金をドル紙幣に換え、外交官がズダ袋に入れてモスクワ経由で運んだという生々しい事実を告白した。

 鈴木氏はまた、外交官同士の足の引っ張り合いも暴露した。キルギスにはキャリア外交官が中心となった現地対策本部が置かれる一方、隣国ウズベキスタンでは日本大使館のノンキャリア外交官が独自に武装勢力とのコンタクトを図り、身代金なしでの解放がまとまりかけていた。

 ところがキャリア組ルートがそれを妬み、キルギス政府を通じてカネを払うという情報を流した。それが武装勢力に伝わったことでノンキャリアルートの交渉は不信を買い、「見せしめに人質を1人殺す」と宣言される窮地に追い込まれたという。

 結局、キャリア組ルートで身代金が支払われるが、それはキルギス政府に“着服”されるという目も当てられない結果になった。当時を知る外務省関係者が吐露する。

「日本政府は人質が拘束されている場所も割り出せなかった。やむなく在ウズベキスタン米国大使館に行き、駐在武官に相談。すると米軍からペンタゴンを経由して霞が関の外務省本省に居場所のデータと衛星写真が送られてきて、やっと拘束場所が判明した」

 情報収集はすべてアメリカ頼み。しかも、カネをバラ撒くしかできないのがこの国の「交渉力」なのだ。

※週刊ポスト2015年2月13日号

関連キーワード

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン