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万博で再燃の「エスカレーター片側空け」問題から何を学ぶか

埼玉では歩かずに立ち止まることを義務づける条例まで施行されたエスカレーター…トラブルが起きやすい事情とは(時事通信フォト)

トラブルが起きやすいエスカレーター(写真はイメージ=時事通信フォト)

 慣習には、割り切れないものも少なくない。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

 * * *
「エスカレーターは立ち止まって乗ろう」「片側を空けて乗るのはやめよう」――。鉄道会社は、かれこれ20年ぐらい前から、エスカレーターの乗り方に関するキャンペーンを繰り返し行なっています。しかし、あいかわらず駅のエスカレータ-の片側は空いているし、空いている側を駆け上がったり駆け下りたりする人も後を絶ちません。

 急いでいるからといって、立っている人の横を押しのけるように通っていくのは、明らかに危険です。私も孫を保育園に連れていくために、一時期はしばしばいっしょに駅のエスカレーターに乗りました。本当は手をつないで並んで立ちたいところでしたが、今の日本の都市部でそれは許されません。後ろから駆け上がって来る人のすり抜けや舌打ちを避けるために、ひとつ上のステップに子どもを立たせて前後に並んで乗っていました。

 都市部の駅で「エスカレーターは二列で立ち止まって乗る」という習慣をいかに定着させるかは、今の日本が直面する大きな課題であり、ある種の試金石と言えるでしょう。

エスカレーター問題に大きな一石を投じたGACKTの主張

 先日、大阪・関西万博で「エスカレーターの片側空け」に関するニュースが報じられ、大きな話題になりました。会場シンボルの「大屋根リング」と地上を結ぶエスカレーターでは、誰もが二列に並んで立ち止まって利用しているとか。

 それを受けてミュージシャンのGACKTが、Xでエスカレーターを歩いて登り降りする危険性を訴えつつ、「(片側を空ける)このおかしな習慣が早くなくなってほしい一人として大いに声を上げたい」と熱い主張を展開。それも大きな話題となっています。

「片側空け」の歴史を詳しく振り返ると長くなりますが、じつは1970年の大阪万博が、欧米の一部に存在していたその習慣を日本に広める上で、大きな役割を果たしました。あれから55年が経ち、同じ大阪で行なわれている万博が、日本のエスカレーターの常識を変えるきっかけになるかもしれません。駅と娯楽施設とでは話が違うという声もありますが、ぜひ「二列に並んで立ち止まって乗る」という気運が高まってもらいたいものです。

 しかし、話はそう簡単ではありません。これほど念入りに「ケガや障害で片側にしか立てない人や足腰が弱いお年寄りとっては恐怖でしかない」「走ったところで何秒も変わらないのに、みっともない」「エスカレーターに無駄な負担をかけるじゃないか」といった声が上がっても、あれやこれやと反論せずにいられない人がたくさんいます。

 人の考えや価値観はさまざまだし、それぞれの正誤を判断する権限は誰にもありません。「エスカレーターは駆け上がったり駆け下りたりするものではない」「片側空けはやめたほうがいい」といった一見「そりゃそうだ」と思える命題に対して、人はどんな反論をしたくなるのか。それを通じて、人間の「業」が浮かび上がってくるかもしれません。

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