ほかにも牛すじを使ったすき焼き風の煮もの(石川)や、鰹だしを入れて煮詰めた割り下を使う(宮城)など、100年前のすき焼きは現在よりも遥かに多様だった。情報や流通といったインフラの充実は、料理というコンテンツすら均一化してしまう。
家のすき焼きの構成要素は複雑だ。居住エリア以外にも家系の出自などさまざまな要素が複雑に絡みあう。すき焼きには百の家庭があれば百のつくりかたがあり、その複雑に絡みあった具材や流儀こそが”味”なのだ。現代では、さまざまなレシピがいともかんたんに手に入る。その結果、レシピの画一化が進むという皮肉な結果も生んでいる。
だがすき焼きは「みんな違って、みんなだいすき」を実現できる数少ないメニュー。目先のおいしさだけでなく、たまには実家のすき焼きの味を振り返ってみる。そんな楽しみ方ができるのも「すき焼き」ならではといえるのかもしれない。