松浦達也 大衆食文化百貨一覧

(写真:アフロ)
巣ごもり化によるホットケーキ需要激増について感じたこと
 未曾有の事態だけに学ぶべきことは多い。食品、流通に関しても然り。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。 * * * 新型コロナ禍では、インスタント麺やパスタなどの小麦粉を使った食品が売れに売れた。震災時のように電力に不安があるわけでもないのに、そのまま食べられるパンや菓子類が売れるのは、人間心理の不思議なところだが、震災のときと明確に違う棚もある。 今回は小麦粉食品だけでなく、小麦粉自体も品薄だし、ホットケーキミックスのような「混ぜるだけ」で済む菓子材料まで品切れになった。その副材料のひとつである、製菓用のベーキングパウダー(ふくらし粉)まで品切れとなっている。 日経POS情報の「売れ筋情報ランキング」における「ケーキ・パン材料」のランキングも異例の並びとなっている。例えば半年前の2019年10月の月次ランキングはこう。【1】日清F スーパーカメリヤ ドライイースト 50g【2】森永 クックゼラチン 5g×6【3】森永 クックゼラチン お徳用 5g×13【4】共立 ホームメイド 製菓用アーモンドプードル 70g【5】日清F スーパーカメリヤ ドライイースト 3g×10【6】共立 ホームメードケーキ バニラエッセンス 28ml【7】朝日 粉かんてん 40g【8】日清F ベーキングパウダー 4g×8【9】マルハニチロ ゼライス ゼラチンパウダー 13袋 65g【10】伊那 かんてんぱぱ かんてんクック 粉末 4g×4 上位に製パン用のドライイースト、ゼリーを作るためのゼラチンや寒天、焼き菓子用のアーモンドプードルあたりが並んでいる。ベーキングパウダーは8位に1ブランドが入っているのみ。ところが新型コロナ化による巣ごもり化が進んだことで半年後、4月の月次ランキングはこうなった。【1】森永 クックゼラチン 5g×6【2】日清F スーパーカメリヤ ドライイースト 50g【3】森永 クックゼラチン お徳用 5g×13【4】共立 ホームメイド 製菓用アーモンドプードル 70g【5】大宮糧食 アイコク ベーキングパウダー 缶100g【6】共立 ホームメードケーキ バニラエッセンス 28ml【7】日清F スーパーカメリヤ ドライイースト 3g×10【8】共立 ベーキングパウダー アルミフリー 30g【9】マルハニチロ ゼライス ゼラチンパウダー 13袋 65g【10】日清F ベーキングパウダー 4g×8 なんと5位、8位10位とベスト10にベーキングパウダーが3種類ランクインしている。3月から巣ごもり化が進み、店頭からホットケーキミックスが消えた。ならば、ミックス粉を使わず、イチから作ろうという需要が高まった。結果、3ブランドのベーキングパウダーが10傑にランクインするという前代未聞のランキングとなった。 売り切れた空の棚を見ると人間は飢餓感が刺激される。そうなると、メルカリなどで不当に高値で販売するヤツら−−いわゆる”転売ヤー”の出番である。通常200円台で売られているホットケーキミックスやベーキングパウダーが1000円以上の値づけで出品されたりもしている。 こうした小麦粉製品の高値販売について、記者会見で聞かれた江藤拓農林水産大臣は「極めてけしからん」と憤った。確かに「けしからん」のだろうし、憤りたくなる気持ちもわからないでもない。 だがこの発言のあった日、スーパー店頭には小麦粉はあった。ホットケーキミックスも銘柄によっては少しずつ棚に戻ってきている。ベーキングパウダーはいまだ戻ってきていなかったが、早晩戻るだろうし、実際この会見でも「屋内の製粉メーカーの工場はフル稼働している」「そもそも不足もしていない」とコメントしている。 現在の小麦粉不足は一時的なものであり、品物が店頭に戻ってくれば価格は自動的に正常に戻り、法外に高額なホットケーキミックスが見向きもされなくなる。 そんなことは農水相も百も承知のはずだ。いま生産物の価格の下落が深刻な問題となっている。飲食店がのれんをかかげられないため、本来飲食店に納められるはずの生産物が行き場を失ってしまっているのだ。4月の牛枝肉の卸売価格は対前年比で3~4割下がり、豊洲市場のマグロの卸売価格は前年比7割近くも下落した。 ちょっとTwitterを覗けば「みんな、そんなにホットケーキ好きだったっけ?」「ベーキングパウダーなんて、重曹とクエン酸で作れるじゃん」という声がずらずらと出てくる。豊洲市場の鮮魚や青果を扱う「豊洲市場ドットコム」ではお値頃産品の宅配が好評を博している。「極めてけしからん」と感情に身を任せる前に、生産物の流通に考えを巡らせ、ぜひ妙案をひねり出していただきたい。
2020.05.10 16:00
NEWSポストセブン
紅豆豆花(時事通信フォト)
タピオカの次に来る台湾グルメ 「茶」も「飯」も「麺」も充実
 自粛を余儀なくされる毎日にあって、最大の気分転換は「食」ではないだろうか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が来るべき食のトレンドについて解説する。 * * * このところの台湾の充実ぶりは、目を見張るばかりだ。決断力あるトップと「天才」と称される若手閣僚が存分に力をふるい、社会システムを構築。世界が対応に苦慮する全容の見えない敵を見事に封じ込め、4月に入ってから、新規感染者がゼロの日もある。 最近、台湾では新規感染者がゼロになると、コンビニのコーヒーやドリンクチェーンなどで「ゼロ人記念2杯目無料」キャンペーンが行われるという。実に羨ましい(なにが羨ましいかはさておき)。そして人のいない東京の街をぐるりと見回すと、台湾のドリンクチェーンがずいぶん増えたことに気づく。 昨年のタピオカの爆発的なブームは、まぎれもない社会現象だったし、小籠包や魯肉飯(ルーローファン)は日本の居酒屋メニューにも盛り込まれるようになった。すっかり生活に浸透した台湾グルメは、もはや日本人にとって平和な日常の風景だ。 とりわけいま求められているのは、やたらに景気のいいバブルっぽい店ではなく、人の日常生活のなかにあるちょっとしたハレの食。台湾グルメはそうした町の空気にもピタリと合う。では、ポストタピオカとも言うべき、次に来る台湾グルメはなんだろうか。 ポストタピオカとなると、まず候補になるのはドリンクとスイーツだ。台湾のドリンクはタピオカの大ブレイクで一気に認知度が高まったが「ドリンクパラダイス」とも言われる台湾には他にもさまざまな飲み物がある。代表的なドリンクが、最近「台湾フルーツティ」として知られつつある「水果茶」だ。紅茶や緑茶、台湾茶などに、オレンジやマンゴーなどの果汁やジャム、果肉を入れたドリンクで、台湾でも人気が高い。「台湾現地メディアでも”本格派”と取り上げられている『HOPE CHA』監修の水果茶など、今年何店かの水果茶が日本にも上陸すると聞いています。現地そのままの味だと日本人には少し甘く感じられるかもしれないので、日本人向けの飲み飽きしない味わいにチューニングしてくるんじゃないでしょうか」(日本人向け台湾コーディネーターのAnnaさん) 店によって使うお茶や果物のブレンドは異なり、それが店ごとの個性にもつながっているという。共通するのは、フルーツの甘味が口当たり良く、酸味が爽やかなのど越しを演出し、茶の渋みで後口もすっきり味というあたり。 スイーツでいえば、豆乳を固めて作る甘味の「豆花」がじわじわ人気になりつつある。豆乳に凝固剤を入れるという、豆腐のような作り方だが、凝固剤はにがりではなく、タピオカと同じキャッサバの粉と食用の石膏(!)。シロップで味をつけ、甘く煮た豆や芋団子のなどのトッピングを乗せる。みつ豆やあんみつにも似た素材の構成で、若者には新しいものとして捉えられ、ベテラン層はノスタルジーを感じそうなアイテムだ。 ドリンクとスイーツだけではない。例えばすでに人気の品として定着している魯肉飯にしても、台湾には味も形も微妙に異なる魯肉飯が無数にある。現地には「これ、角煮丼でしょう!」と言いたくなるほど、大振りな角煮を乗せてくる店もあり、店ごとに違う味わいを楽しめるおおらかさがある。とかく日本人は「正解」を求めたがるが、本場では無数の正解があるのはいずこも同じ。新しいおいしさを教えてくれる魯肉飯にもぜひ出会いたい。「飯」で言うなら、「排骨飯(パイコーファン)」を出す店の躍進も待たれるところだ。豚のアバラ肉に卵と小麦粉の衣をつけて揚げた中華風とんかつをご飯の上にドンと乗せ、醤油味のタレをかける。まるでカツ丼のようなボリューム感と味わいに、丼メシががんがん進んでしまう。 もうひとつ「飯」で言うと、少々地味ながらも「鶏肉飯(ジーローファン)」の店もほしい。細かく割いた鶏のむね肉やささみを飯に乗せ、鶏油と少し甘口のタレを回しかけて完成する丼だ。「排骨飯」よりは比較的さっぱりと食べられるので、ぜひとも気分で使い分けたい。 そして「飯」と言えば「麺」だ。実はいま、台湾の袋麺(インスタント麺)の進化が、めざましい。とりわけ近年の流行は「汁なし麺」。コシのある麺に、花椒やラー油、ゴマダレなどパンチがしっかり効いたタレを和える袋麺が群雄割拠の趣で、メーカーごとに味わいは異なるが、いずれ劣らぬ味わいで一刻も早い国内への導入を願いたいが、現地を訪れるのが難しい現在でも、とりあえずは通販などで入手できる。ぜひ一度お試しいただきたい。 そのほか「台湾山胡椒」と称され、レモングラスの香りを放つ「馬告(マーガオ)」というマニア垂涎のスパイスなど、まだ日本では手に入りにくいアイテムなど、知られざる台湾の味はまだまだある。 ドリンクやデザートから、飯や麺まで。進化し続ける台湾の食べ物を現地で、そして日本国内で気兼ねなく思い切り口にしたい。とにもかくにもできる限りの早期の収束は、万人の願いである。
2020.04.30 07:00
NEWSポストセブン
(写真:アフロ)
2020年の食のトレンド 「グローカルフード」に注目が集まる
 何を食べるかはつまりどう生きるか、につながる。オリンピックイヤーの食卓にはどういった変化が見込まれるのか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。 * * * 人間の営みのまわりには、必ず流行りすたりがある。昨年末には2019年の「食」について総括をしたが、2020年の「食」について年頭にあたり、恒例の今年来る「食」を予想しておきたい。まず五輪イヤーとなる2020年の今年、注目が集まるのは「グローカルフード」だ。昨年、大流行した台湾の「タピオカ(ミルクティー)」やコリアンタウン発の「ハットグ」のような海外の流行をそのまま取り入れるだけでなく、海外でもより狭い地域、未知なるエリアで人気だったものが発掘され、紹介されて人気を獲得するはずだ。 すでにその兆しは飲食店の現場でさまざまな形で起きている。日本の名店で研鑽し、キャリアを積んだシェフが、海外の数十か国を巡った後、昨年オープンさせた中国料理店があっという間に予約の取れない名店となり、話題となった。確かな舌と腕で、現地の味を日本に持ち込み、サービスなどを含めてこの国の気風と風土に合わせて微調整したところ、名だたる食通から絶賛を受けることになったのだ。 ジャンルとしての中華も引き続き注目が集まる。近年、埼玉県の西川口にはこれまで中国の奥地でしか食べられなかった現地の郷土料理を食べさせる飲食店が雨後のタケノコのように開店した。背景には風俗店の一斉摘発で空きテナントが大量に発生したこともある。中国の奥地まで足を運び、現地の料理や食文化を紹介するライターもいるし、中華圏の料理を再構築して提供する、四谷・荒木町の料理店も大人気だ。 中国料理だけではない。日本に焦がれたメキシコ人シェフが、生地をトウモロコシから挽く三軒茶屋のタコス店にはファンが引きも切らない。日本在住歴の長いインド人オーナーも銀座のど真ん中にスパイスを中心に据えたフュージョン料理店をオープンさせた。中央アジアのウズベク・キルギスの郷土料理を現地出身のシェフが提供する店のカウンターは在日中央アジア人でパンパンだし、ラオス、ミャンマーなど東南アジアと日本を行ったり来たりするご夫婦が、現地料理を振る舞うサロンも常に予約で満杯だ。 これまではフランスやイタリアの料理店で働いていたシェフが「本場での修業」経験をひっさげて、現地の料理を再現するシェフや店が多かった。だが日本人、特に東京のマーケットは「辺境」さえも消費しつつある。2020年の東京では、物珍しい辺境食を再現しただけでは、飛びつく理由にはなりえない。その背景にある暮らしや文化の香りが漂ってこそ、辺境食は輝きを放つのだ。その一皿の後ろにある物語や背景は必ず皿の上に反映される。見知らぬ文化を味わうために、人は飲食店に足を運ぶのだ。われわれ見知らぬ土地からやってきた、食べ物にのみ惹かれるのではない。 あの「サイゼリヤ」も年末にメニューを改定した。本格的なイタリア料理店でも仕入れない酒を試験導入し、ラム肉の串焼きもグランドメニューに盛り込んだ。オリーブオイルの効いた白菜のミックスピクルスに、やさしい味の田舎風やわらかキャベツのスープ──。こうした品や使い放題のオリーブオイルやチーズからは、チェーンという業態でありながら、異国の文化を日本人にも受け入れられる形で伝えようという姿勢が感じられる。 より辺境の地から持ち帰った料理や、日本と日本人に合わせた「グローカルフード」を提供する、遠い地の暮らしと文化が香る飲食店が、今年さらに加速する。
2020.01.03 16:00
NEWSポストセブン
タピオカ店に行列が絶えなかった
2019年の食を総括 タピオカ、オレンジワイン、コメ復権
 美味いものを食う、それ以上に楽しいことはそうない。今年はどんな1年だっただろうか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が2019年を総括する。 * * * 2019年も食業界でさまざまなブームが起きたが、元号が令和となった今年の大賞はなんと言ってもタピオカに尽きる。「タピる」が流行語大賞トップ10に選ばれ、飲んだ後の空きカップのゴミ問題などを含め、1990年代の第一次、2000年代の第二次とは比較にならないほど盛り上がった。若者が行き交う町には、続々とタピオカミルクティーの店舗が出店し、狭小物件でも行列ができ、社会現象にまでなった。 過去二回のブームと違ったのは、インスタグラムなどSNSなどでの個人発信が大きなうねりを生んだことで、関連用語が爆発的に増えたことだった。 前出の「タピる」(タピオカを食べる)のほか、「タピ活」(タピオカに触れる活動)などの言葉も一般的に遣われた。さらに発祥店によるSNSへの写真投稿催事「タピオカチャレンジ」が、ユーザーによって独り歩き。一部ではタピオカミルクティーを胸に乗せて写真を撮影し、「#タピオカチャレンジ」というハッシュタグでSNS展開するユーザーも現れた。流行を個人個人がカスタマイズして、サブカルチャー文脈に乗せて楽しむしなやかさも印象的だった。 局所的に使われる用語も増え、筆者が耳にした範囲では「タピられる」という言葉を「行列に割り込まれる」という意味で使う大学生もいた。極大化したブームは、ビジネス面、社会問題、そして若者文化まで多様な影響を与えながら、肌寒くなるとともに落ち着きを見せている。来年、暖かくなる頃に、果たしてどれだけの行列が復活するのか。無数に増殖したタピオカ店はブームの先に到達できるか、真価が問われるのは2020年である。 一方、大人世代にとって一大ブームとなった飲料と言えば、「オレンジワイン」。「オレンジ」と言っても柑橘類を原料としているわけではない。もともとは一大産地ジョージア(グルジア)で「アンバーワイン」と言われていたワインを指す。 白ワインに使われるような白ブドウ品種を使いながら、赤ワインのように果皮や種とともに発酵させたワインで、白の華やかさのなかに赤にも通じる渋味や苦味がニュアンスとして効いている。添加物の少ないワインが多かったこともあり、ナチュラルワインの流行とともに追い風に乗った。一般的な赤ワインや白ワインが苦手としてきた香辛料を使った料理との相性もよく、今年一年で扱う飲食店も一気に増えた。白、赤、ロゼという作りの体系で考えると、見落とされていた種類であり、こちらはブームでは終わらずカテゴリーとして確立されていくはずだ。「復権」という側面から見ると、この数年「糖質制限」などの逆風にさらされてきたコメにも光が当たりつつある。近年、地球温暖化に伴い、各地で育てられてきた品種に高温障害が多発した。各地の農業試験場が新品種の開発に乗り出した結果、この数年でコメの新品種が一気に増加。甘みと粘りに特徴のあるコシヒカリの逆を行くような「ハリ」や「粒立ち」といった特徴のあるコメがデビューしたことで、一気にコメの多様化が進んだ。 コメが進化すればカレーも変わる。特にこの数十年、家庭の食卓では固形のルウを使ったカレーが絶対王者だったが、この数年で各種スパイス&ハーブから作る「スパイスカレー」が家庭でも人気となり始めている。「そもそもカレーにはスパイスが使われているはずなのに、『スパイスカレー』という名はいかがなものか」という声もあるものの、舶来文化をカスタマイズしてきた、日本ならではの食文化がその源流へと回帰しようというトレンドのようでもあり、実に興味深い。 望まれざる流行として挙げられるのが豚コレラ(CSF/豚熱)だろうか。豚とイノシシ特有の病気で、下痢や発熱を伴う。人間には感染らないが、現在アジア圏で猛威をふるっていて、日本でも岐阜県で発生が確認されて以降、中部地方を中心に東は関東、西は京都まで20に及ぶ都府県がワクチン接種推奨地域となってしまっている。一刻も早い事態の収束が望まれる。 番外編としては、この数年快進撃を続けてきた「いきなりステーキ」が年末に40店舗以上の閉店を発表したことや店頭に創業社長の一瀬邦夫氏による「来店のお願い」が掲出されたことがSNSで話題となった。 Twitterでは「(運営会社の)ペッパー、四季報の見出し変遷 【いきなり加速】⇒【いきなり減速】⇒【いきなり閉店】(2017年秋号⇒2019年夏号⇒2020年新春号)」と揶揄されてしまっていた。年の瀬は悲喜こもごも。逆風にさらされている方々におかれても、来年はぜひ捲土重来を期待したい。その姿は日本経済にも重なるからだ。2020年が読者諸兄にとっていい年でありますように。
2019.12.31 16:00
NEWSポストセブン
日本のクリスマスは独自の進化を遂げてきた
キリスト教国と異なる日本のクリスマス カスタマイズの歴史
 なぜ日本人はクリスマスが好きなのか。考えてみれば不思議な事象である。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が紐解く。 * * * 日本におけるクリスマスの過ごし方は、キリスト教国のそれとは違う。宗教行事の一環でもある欧米のクリスマスでは市民は当たり前のように仕事を休み、飲食店もシャッターを下ろして、家族とともに団らんを満喫する。食卓にはオーブンで焼かれたターキーやローストビーフが登場する。 一方、日本のクリスマスのスタイルは独特だ。きらめくイルミネーションの下、カップルが愛を誓い合う。飲食店はかきいれ時とばかりにこぞって看板を灯し、パーティ予約もがんがん受けつける。家庭のクリスマスにおいてもターキーのような巨大な丸鳥を焼くことができるオーブンはなく、買ってきた解体済みのローストチキンが食卓に上る。そこには宗教行事としての色がない。国民の多くがゆるやかながら神道か仏教の徒であり、キリスト教徒の数はわずか1%台なのだから、宗教色など盛り込めようはずもないのだ。にも関わらず、日本のクリスマスは年中行事のなかでも指折りの盛り上がりを見せる。 日本のクリスマスは、どうやってこれほど自由闊達に楽しむスタイルを獲得したのか。 話は明治時代に遡る。そもそも明治初頭から、横浜や神戸などの外国人居留地では外国人によるクリスマスパーティは毎年行われていた。〈二十五日は年に一度のクリスマス祭日ゆえ横浜居留地の各商館及び各銀行はいずれも休業して思ひ思ひに祝祭をなし、また二十番グランドホテルに於いて夜会を催す〉(明治21年12月12日付朝日新聞) 1889(明治22)年に施行された「大日本帝国憲法」で日本国民にも信教の自由が保障された。ただしそれは〈日本臣民は、安寧秩序を妨げず、かつ、臣民としての義務に背かない限りにおいて〉という限定的なもので、そこには当時の政府の複雑な思惑があったと考えられる。 1899(明治32)年にはキリスト教の教育禁止を盛り込んだ私立学校令案第17条が出され、同年には外国人が経営する学校に対する規制強化が盛り込まれた私立学校令が発令された。明治政府は明らかにキリスト教を警戒していたのだ。ところが同年末、アメリカ公使館の招待を受けて、山県有朋総理大臣ほか日本政府の高官が公使館のクリスマスパーティに出席する。このパーティにはイギリス、ドイツ、ロシア、フランスなどの列強が名を連ねていた。日本のクリスマスの起源に詳しい『クリスマス どうやって日本に定着したか』(クラウス・クラハト/克美・タテノクラハト 角川書店)は当時の日本政府の心情をこう解釈する。〈日本政府は、宗教としてのキリスト教は容認しがたかったものの、国際化のためには政教分離政策でこれに対処し、クリスマスに関しては西洋のお祭り(パーティ)、単なる社交と解釈したのではないだろうか。この時点で日本におけるキリスト教の地位、もしくはクリスマスの方向が明白にされたといっても過言ではない。本来、キリスト教の祭礼行事であるクリスマスが、これを機に一般の日本人の間にも広まり、耶蘇降誕祭とかけ離れたクリスマスが形成されていくのである〉 明確に「本音と建前」を使い分け始めたこの頃から、メディアにおける「クリスマス」の文字は激増する。特に1893年に銀座二丁目に進出した明治屋は、以降の積極的な新聞広告への出広が奏功してか、1900(明治33)年以降のクリスマス時期の新聞には、毎年のように「明治屋のクリスマス飾り」や「明治屋のイルミネーション」が歳末の風物詩として取り上げられるようになる。 その他の企業も目新しい商機に飛びついた。以降の新聞をチェックしていくと1904(明治37)年には東京森永がマシュマロやキャラメルを「歳暮、年始、クリスマスご進物用」として宣伝しているし、1907年には丸善が大大的に「クリスマス」と銘打って「進歩したる家庭に適する文明的贈答品 山の如く新著したり」という広告を出広している。こうして宗教色を切り離されたクリスマスは、大正、昭和という時代を経ながら徐々に庶民へと浸透していった。 1923(昭和3)年生まれの心理学者、河合隼雄の回想によれば欧米文化がすべて「敵性」とされた第二次大戦中の十代半ばの頃、とある”事件”があったという。クリスマスのことを心配する河合に対して父親が「サンタクロースはもう来ない」と宣言。ところが直後に「日本には大きな袋をかついだ大国主命という神さんがおられる」とぽつり。本来、宗教と切り離されたはずのクリスマスに、まさかの宗教色を上塗りするという大胆なカスタマイズである。結果、河合少年は無事クリスマスプレゼントを獲得。プレゼントの箱には大国主命の絵が描かれていたという。移りゆく世相のなか、親子のコミュニケーションも各家庭で工夫されていたのだ。 戦争を乗り切った日本のクリスマスは、終戦直後こそ一部で宗教論争に巻き込まれたものの、戦後復興や高度成長期の商業主義と結びつき、さらなる発展を遂げていく。そしてクリスマスは1970年の外食元年以降の外食文化、1980年代バブル当時の若者のデート文化など急速に進んだサブカルチャーの成熟とともに、日本独特の特異な形へと展開していった。 欧米のクリスマスの過ごし方は、日本における正月と酷似している。仕事を休み、実家や家族で過ごす。暦で考えてもわずか一週間しか間のない時期に、まとまった休みを伴う同じような性格の行事が続くことは経済的にも文化的にも成り立ちにくい。日本のクリスマスは、移り気な日本人の気風に寄り添い、変化することで独特なスタイルを獲得し、生き延びた。そのしたたかさは、もしかすると変化することを忘れつつある現代の日本人自身にもっとも必要な素養かもしれない。
2019.12.15 07:00
NEWSポストセブン
続々、新銘柄が登場
進む米の多様化 この10年で需要量15%減も銘柄数は50%増
 最近の「ごはん好き」は単なる白米好きではなく、おしなべて好きな銘柄を持つようになっている。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏がレポートする。 * * * この10年ほどで、米の多様性はずいぶんと進んだ。象徴的な数字がある。品種の数だ。本年度、農林水産省に登録されている食用うるち米の「産地品種銘柄」──産地ごとに品種を区分した銘柄の数は824種類。過去最多となった昨年の795種類を更新した。この10年で約5割も銘柄数が増えている。 これは単純に新品種開発が進んで市場が盛り上がっているなどという、賑々しい話ではない。少なくとも国内生産量という視点では、コメマーケットは衰退市場と言っていい。1960年代後半に1445万トンあった主食用米の生産量は、半世紀経った昨年には778万トンとほぼ半減。この10年で見ても需要量は15%落ち込んだ。にも関わらず、銘柄数は増え、前年よりも売上を伸ばす銘柄米も出てきている。競争は激化し、新たな食味を持つ新品種も続々と名乗りをあげている。これまで好調だったブランド銘柄とて安穏とはしていられない。 この数十年、米ブランドとして圧倒的な王者として君臨してきた「コシヒカリ」。その強さの背景には、食味の良さはもちろん、「寒さに強い」という生産者メリットもあった。ブランドは質も含めた安定供給があってこそ確立される。コシヒカリだけではない。寒さに強い「ひとめぼれ」「はえぬき」といった品種は家庭用、業務用を問わずロングセラーとなっている。 一方、1980年代にブレイクした「ササニシキ」は1990年に全国の作付け2位になるまでに生産が拡大されたものの、1993年の大冷害で収量が激減。以降、「寒さに弱い」との評判が広まり、農家から敬遠されてしまった。さらに「わかりやすい甘みと旨み」に消費者が引っ張られ、さっぱりしながらもコクのある通好みの食味は、より甘くて粘りの強いコシヒカリの「わかりやすい味」に押されて、そのポジションを失ってしまっていた。 ところが、近年の温暖化が国内における米のブランド勢力図を一変させようとしている。昨年2018年に発表された「平成29年度産米の食味ランキング(日本穀物検定協会)」ではブランド米の王様、魚沼産コシヒカリが指定席とも言える「特A」から「A」に転落した。さらに今年発表されたランキングでは、宮城県のササニシキが23年ぶりの「特A」を獲得し、業界で大きな話題となった。 2018年のコシヒカリの「特A」落ちは、その年の8月中旬以降の低温と日照不足による登熟不足と食味の変化が理由とされる。実際、米の適作地は温暖化に伴って北上していて、各地で登熟期の高温に耐えられる新品種の開発が急務となっている。 今年発表された「平成30年産米の食味ランキング(日本穀物検定協会)」では魚沼コシヒカリの「特A」復帰が話題になったが、全体として目立ったのは寒冷地である岩手や秋田といった東北勢の躍進だった。岩手は県南の「ひとめぼれ」と県中の「銀河のしずく」。秋田も県南の「ゆめおぼこ」と中央の「ひとめぼれ」というそれぞれ2銘柄が「A」から「特A」へと評価を上げた。山形の新規銘柄「雪若丸」も村山と最上という2か所の産地で「特A」を獲得した。 もっともこうした東北勢の躍進は単に温暖化によって適作地が北上したというだけの話ではない。もし適作地の北上だけが理由ならば、長く生産され続けてきた宮城県のササニシキの23年ぶりの「特A」復帰の説明がつかないからだ。察するに穀物検定協会の検定においても、コシヒカリ一辺倒ではなく、さまざまな食味が評価されるようになってきたのではないか。 適作地の北上に伴い、各地で新品種の開発が進んだ結果、多様な味わいが穀物検定の検定員の口に入るようになった。10年前、平成20年産の食味ランキングでは特Aを取ったのはわずか6品種21銘柄だったが、最新の平成30年産米では品種22、銘柄55と、品種・銘柄ともに過去最多の特Aが生まれた。日本のコメマーケットは、国内市場向けの生産物としては縮小傾向にあるが、質としては多様な味わいを認める円熟期に入ってきていると言っていい。 文化が醸成される過程では、特定のブランドや権威がもてはやされ、市場が一色に塗りつぶされる時期がある。しかし「文化」として認められるものは、必ずその先に一定の多様性を獲得する。 口に入れた瞬間「甘い」「粘る」ことだけがうまさの指標ではない。噛みこんだ先にある味の伸び、弁当やおにぎりにしたときの冷めたごはんの味わい──。近年市場に投入される銘柄米には、さまざまな味わいがある。皮肉なことに「コメ離れ」が囁かれて久しい現代において、ようやく日本人は「コメ文化」を獲得しつつあるのかもしれない。
2019.12.01 16:00
NEWSポストセブン
植物由来の成分でつくられたベジタリアン向けハンバーガーのパティ(写真:アフロ)
アメリカの「フェイクミート」市場が大盛り上がりな理由
 地球温暖化、人口爆発はグローバルな課題。その流れでいくと「代替肉」のブームが日本に到来するのも時間の問題かもしれない。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。 * * *「フェイクミート」市場が盛り上がっている。「ビヨンド・ミート」のパティを使った『ダイヤモンド・ザイ』11月号の別冊付録「いま買いの『米国株』100」で「将来の10倍株」銘柄に取り上げられ、並び評される「インポッシブル・フーズ」もアメリカでバーガーキングと提携。日本では想像できないほどの盛り上がりを見せている。世界の市場規模は2022年までに6000億円市場になるという試算もあるほどだ。 そもそも「フェイクミート」とは何か。日本語の響きとして「フェイク」というと「偽物」を指すネガティブニュアンスだが、「フェイクフード」は単に味や食感を肉に似せた代替肉を指す。大豆やエンドウ豆などを使った植物由来のアイテムを指すと考えていい。動物の細胞を培養してラボで作る”培養肉”も開発が進められているものの、コストや倫理上の課題もあり、現時点で市場に出回っているのは植物由来のもの。 冒頭で触れた2社も、現状では植物由来のフェイクミートメーカーで、健康的なイメージを打ち出したいファストフード業界から熱視線を受けている。 2009年創業の「ビヨンド・ミート」は8月には米アトランタのケンタッキー・フライド・チキンで「ビヨンドフライドチキン」として骨なしチキンとナゲットが試験販売されている。今年5月にはナスダック市場に上場し、2億4060万ドルの資金調達に成功した。上場時の時価総額が14億6000万ドルという文字通りの注目株だ。 もうひとつの雄、「インポッシブル・フーズ」もバーガーキングの「インポッシブル・ワッパー」のパティにフェイクミートを提供している。こちらも7億5000万ドル以上の資金調達に成功していて、企業規模は20億ドル超とも言われる。 ちなみに日本で2000億円程度の時価総額の企業を探すと、吉野家ホールディングスが時価総額で約1600億円(牛丼業態だけでなく、はなまるうどんや京樽といった他業態も含めたホールディングス全体の数字)。まだ発展途上のはずのフェイクミート企業はその上を行っている。 なぜ、アメリカでフェイクミート関連企業がこれほどまでに評価されているのか。そこにはいくつかの要因がある。◆フェイクミート関連企業が躍進 第一に挙げられるのが、アメリカ人の健康問題だ。フェイクミートにハンバーガー業界が食いついていることからもわかるように、アメリカでは大衆層の「食と健康」が長年、社会的課題となっていた。 1968年、ときの米フォード大統領は「栄養と所要量に冠する上院特別委員会」の議長に貧困問題や食糧問題に詳しかったジョージ・マクガバンを任命した。通称マクガバン委員会とも言われたこの委員会では、19世紀以降のアメリカの病気と食生活の変遷をたどり、世界中の食生活と疾病の関係性を徹底的に調査を行う。 課題とされていた「栄養と食」問題に取りかかり、9年かけて1977年に通称「マクガバン・レポート」と言われる5000ページを上回る調査結果を報告する。そこにはガンや心臓病、糖尿病の原因が食生活にあること、栄養と食べ物こそが医学の柱であることが指摘されていた。 以降、アメリカは官民挙げて、「食と健康」の改善に乗り出す。1990年代にはUSDA(米国農務省)や民間企業などの協力により、野菜、果物を1日5皿以上食べようという「5 A DAY」運動がスタート。この動きは海外にも広がり、2002年には日本にも協会が設立された。さらに2011年には当時のオバマ大統領夫人によって「皿の半分を果実や野菜にしよう」という「マイプレート」運動など、国を挙げての野菜の摂取に力を入れてきた。 かたや1977年のマクガバン・レポートで”理想的な食生活”の例とされた日本はどうかというと、実は1993年にひとりあたりの野菜の摂取量でアメリカに抜かれている。ヴィーガンの台頭などを見ても、もはや現代日本人よりもアメリカ人のほうが”菜食”と言えるのかもしれない。 フェイクミート企業が躍進する2つ目の理由は食糧危機だ。1950年に25億人だった世界の人口はそれから70年で3倍以上になった。2019年現在、77億人の世界人口は2030年には85億人、2050年には97億人、2100年には109億人になることが予想されている。 増大する人口自体が環境へと負荷を与えるだけでなく、人類が口にする畜産動物もまた環境への負荷が深刻だと言われる。例えば肉ならば牛肉1kgを生産するのに11kgの穀物が必要だと言われる。豚なら7kg、鶏でも4kg。人間が肉を口にするほど加速度的に環境負荷は高くなってしまうというのだ。 増え続ける人間が食肉となる畜産動物を飼うことは、そのまま雪だるま式に地球温暖化を促進させてしまう──という説がある。人間が地球環境に厳しい生き物だからこそ、環境への負荷が少ないフェイクミートが評価されるのだ。 そしてこうした要因がフェイクミート企業が躍進する3つ目の理由を加速させる。投資である。今年になって、スタートアップへの投資やIPO市場に冷え込みが見られるという。しかし冒頭にも記したように今年「ビヨンド・ミート」はナスダックに上場し、2億ドル以上の資金を調達した。「インポッシブル・フーズ」も順調に資金調達に成功し、両社とも市場の冷え込みとは無縁の快進撃だ。 その背景には最近注目を集める投資手法がある。「ESG投資」、すなわちE(Environment/環境)、S(society/社会)、G(governance/企業統治)を指標として行う投資手法のことだ。フェイクミートはまさしくE(環境)とS(社会)にかなう投資先であり、Governance(企業統治)が担保できるならば、両社がアメリカで企業規模を拡大してきたのも当然と言えよう。 アメリカは「フェイク」と呼ばれる食べ物を開発する企業を「環境」「社会」という新しい指標で高く評価するようになった。日本はどうか。環境に対する意識の立ち遅れは否めず、いまだ価格至上主義が貫かれている。かつての近江商人は「売り手よし、買い手よし、世間よし」と商いにおいて社会性を重視した。「飽食の国」を自戒する日本において、次なる食ビジネスの指針となり得るキーワードはまだ見えない。
2019.11.10 16:00
NEWSポストセブン
参入企業も多く販売競争が激しい「甘酒」
驚異的に成長中の甘酒市場 新規参入組も続々の内幕
 甘酒は日本の伝統的な甘味飲料。この市場が5年で5倍になっていると聞くと、意外だという印象を受ける人も多いのではないか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏がレポートする。 * * * マルコメ、ハナマルキなど長野県の大手味噌メーカーが甘酒に本気で乗り出している。7月下旬には、女優ののんが出演するマルコメ糀甘酒の新テレビCMが公開。今年の春先にはハナマルキがほんのり琥珀色、透明なタイプの「透き通った甘酒」を発売されている。 国内の甘酒市場は現在、大きく伸びている。2017年の売上は223億円。実に2012年の約5倍という驚異的な成長市場であり、とりわけ麹を原料とするメーカーは成長する甘酒市場との親和性が非常に高い。 ハナマルキは2017年に初めての甘酒商品として500ml×400セット限定で自社サイトを通じて販売したところ早々に完売。今年、サイズなどを見直し、満を持して甘酒市場へと本格参入した。 同じく長野県のひかり味噌も2017年から甘酒市場に本格参入。本来、味噌は仕込んで数か月以上寝かさなければ商品にならないが、糀は水を加えて温めれば数時間で甘酒になる。同じ原料でも味噌に比べて甘酒は現金化しやすく、扱いやすい商品なのだ。 この構造は、蒸留酒メーカーにおけるウイスキーとクラフトジンの関係にも似ている。熟成に時間がかかるウイスキーを寝かせている間に、蒸留すればすぐ販売できるクラフトジンでつなぐ。同業界の生産者や生産物が増えれば、棚の専有面積やメディア露出も相乗効果で増え、トレンドの腰は強くなる。 のんをCMのキャラクターに起用したマルコメは、新工場を作るほどの気合の入れっぷり。マルコメももともと長野県の会社だが、今年の春、完全子会社である魚沼醸造の新工場を新潟県魚沼市にオープン。長野県外に初の製造拠点を置くことになった。一般向けスペースのサロンには工場直送の糀甘酒や、甘酒で甘みを加えたソフトクリームなどを提供。ライブラリーも併設し、予約制ながら工場見学も受け付けていて、観光型の工場で新たな展開を目指している。 甘「酒」となれば、もちろん酒造メーカーも指を咥えて見ているわけがない。新潟県魚沼市の「八海山」で知られる八海醸造も「麹だけでつくったあまさけ」を10年前から販売しているが、注文の多さにその後、専用工場を立ち上げた。2年前からはさらに規模の大きな工場で製造中。京都・伏見の黄桜も2年前から「黄桜 甘酒カップ170g」を冷蔵アイテムとして発売している。 その昔から、味噌蔵や酒蔵は本業の傍らであっても、必ずと言っていいほど甘酒を作ってきた。近年では自然由来の甘みが抽出できるナチュラル甘味料として、国内のみならず、外国への展開も視野に入れるメーカーもあるという。実は甘酒市場でトップシェアを誇る森永製菓も、「夏の甘酒」を視野に入れて、今年の春から冷蔵タイプの甘酒を投入した。 今年の夏は、熱中症対策飲料など機能性飲料が花盛り。そんななか元祖機能性飲料とも言われる甘酒の勢いはとどまるところを知らない。
2019.08.04 16:00
NEWSポストセブン
山椒が味のアクセントに(写真:アフロ)
山椒ブームが拡大 スナック菓子や蒸留酒、カップ麺にも
 クセになる人が続出、ということなのかもしれない。スーパーの棚の専有面積も着実に増えている。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が「山椒ブーム」について解説する。 * * * 明治時代の牛肉しかり、平成のパクチーしかり。個性のある味の定着には時間がかかる。なじみのある食材や調味料でも、シーンが変われば「新しい味」としてすそ野が広がる。 そんな「新しい味」として強力に存在感を増しているのが「山椒」だ。英語だと“Japanese Pepper”と言われるが、日本では実を使ったスパイスとしてだけでなく、葉もハーブとして使う一人二役タイプのスパイス&ハーブ。実はちりめん山椒などに、葉を乾燥させた粉末状の薬味はうなぎには欠かせないし、生の葉は若竹煮のあしらいにも欠かせない。 和山椒は数年前まで、上記のような“脇”としての使われ方が多かったが、近年になって気鋭の飲食店が続々と花山椒や実山椒を使った鍋を提供するようになって一気に火がついた。 日本の山椒だけではない。英語で“Sichuan Pepper”──直訳すると「四川胡椒」となる「花椒」もまた「麻(マー)」と言われるしびれる味わいが存在感を増している。 とりわけ唐辛子の「辣(ラー)」味と組み合わせた「麻辣」味が日本にも定着。この数年で、大衆中華店の麻婆豆腐でも仕上げの花椒が振られるようになり、コンビニの麻婆豆腐にも複数種類の花椒が使われるように。日常にも「麻」味はすっかり定着した。 そして今年、その勢いはさまざまな食品・飲料に及んでいる。特に土用の丑を控えたこの季節、近年のうなぎ不足もあってか、スナックやインスタント食品に“うなぎ味”が続々と登場している。 まずは身近なポテトチップス。ハウス食品は「オー・ザック」にうなぎの蒲焼味を投入し、山椒の香りをアクセントに加えた。「裏メニュー」としてごはんにかける「うな丼風」やそこにだし汁をかける「うな茶づけスタイル」などの食べ方も提案している。かたや惣菜では、日本ハムが「うなぎみたいな鶏の蒲焼 うなチキ」という成形加工した鶏肉のローストを蒲焼き風のたれと山椒で食べさせるアイテムを発売した。 蒸留酒にもその余波は及んでいる。京都蒸留所の「季の美」のように山椒の香りをボタニカル(ジンのフレーバーの元になるスパイス&ハーブ)として使ったクラフトジンも一大ブームに。「晴耕雨讀」の佐多宗二商店は芋焼酎に和歌山産の山椒を漬け込み、蒸留にかけたクラフトスピリッツ「AKAYANE」も気鋭の焼鳥店が続々採用。「焼鳥とぴたりと合う」と好評を博している。 当然、本筋の「食事」適性が見過ごされるはずもない。日経POS情報の売れ筋商品ランキングでは総菜・弁当部門でシノブの「ちりめん山椒ご飯弁当」が上位20傑の常連に。「キッコーマン うちのごはん 混ぜごはんの素」シリーズに新たに投入された「雑穀ごはん 鰹と昆布の合わせだし」も隠し味に山椒を香らせた。ウェンディーズ・ファーストキッチンも「夏野菜と海老のしびれる花椒パスタ」を商品ラインナップに加え、和洋中を問わず山椒・花椒、花盛りといった趣だ。 日清食品に至っては和山椒、花椒問わず、山椒への注力ぶりがものすごい。この7月1日に発売された「日清のどん兵衛 東西食べ比べ」の「日清のどん兵衛 きつねうどん」「日清のどん兵衛 天ぷらそば」の西日本仕様では和山椒をきかせた七味を採用し、7月8日発売の「日清麺職人」シリーズには「山椒香る和風醤油」味を投入した。今月早くも3アイテムに山椒が採用された。 まだある。今後の予定では9月1日発売の「冷凍 日清のどん兵衛 豆乳担々うどん」に和山椒、同日発売の「冷凍 日清具多」では「白胡麻担々麺」「辣椒担々麺」の両方に花椒を使っている。山椒・花椒の雨あられだ。 そういえば同社は何年か前から「日清焼そばU.F.O.」に花椒味のアイテム「麻辣紅担々焼そば」や「麻辣あんかけ風焼そば」を投入していた。よほどの好事家が社内にいるのだろうか。 昭和の頃、人は暑い盛りの土用にうなぎを求めた。平成にはカレーのようなスパイシーな食べ物が夏の食として定着した。そして令和の夏には、それらの系譜を継ぐ山椒や花椒の「麻」が根づくのかもしれない。
2019.07.14 16:00
NEWSポストセブン
タピオカ店に行列が絶えなかった
若者が大行列のタピオカとうどんの知られざる密な関係
 そこかしこで若者が行列をなしているタピオカだが、実は庶民にとって案外身近な食材である。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。 * * * 台湾発のタピオカ人気が止まらない。若者や学生の集まる町では続々とタピオカミルクティーを提供する業態の店舗が立ち上げられている。 原宿・表参道あたりを歩いてみると、確認できるだけで30以上の店でタピオカドリンクが売られている。その熱は引きをも切らず、新宿、池袋、上野などの繁華街や高田馬場などの学生街でも、今年に入ってからも新店がオープンするほど。 こうして可視化されると「タピオカ」がいきなりスターダムに駆け上がったかのように思えるが、以前にも1990年頃、バブル終盤に一時的にタピオカデザートがブームとなったことがあった。さらに言えば、ブーム以前からタピオカは庶民の食のなかのそこかしこに使われてきた。 象徴的な食品が「うどん」である。とりわけ冷凍うどん界において、タピオカはコシを出すための加工でん粉として欠かせない素材となっている。「うどんの命はコシ」と言われることが多いが、コシだけがうどんの味ではない。コシ、粘り、つるみ……食感だけでもいくつもの要素がある。 例えば、小麦粉由来のでん粉を鍛えたうどんはいったん茹でて心地いい食感になったとしても、その後低温で保存されるとぼそぼそした食感に変化してしまう。これはでん粉の「老化」によるもので、てっとり早く解決するにはでん粉の種類を変えるのが効果的だと言われる。 タピオカでん粉を原料とする酢酸デンプンなどの加工でん粉は粘度が高く、老化しにくい「耐老化性でん粉」と言われるもの。日本人が麺類において重視すると言われる小麦粉の「粘弾性」を安定して出すことができる素材で、麺に必要なもちもちとした食感、のど越しのいいつるみ(滑らかさ)、白さなど、うどんにうってつけの素材とされている。 原料小麦粉の2割程度、タピオカ由来のでん粉を入れることで、冷凍うどんはもちもちとした食感を強調した、よりうどんらしい食感になるという。こうした使い勝手のよさが重宝され、タピオカ由来に代表される「耐老化性でん粉」は冷凍うどん以外にもそば、ラーメン、パスタなど多くのチルド麺に使われている。 他にもタピオカ由来のでん粉はさまざま使われているな場面で。粘度の高い団子のたれやジャム、カスタードクリームなどの増粘剤に。また揚げ物では、サクサクした食感になりやすいと、タピオカ由来の酸化でん粉が利用されている。 タピオカは、バブル以降にその名前が浸透した印象もあるが、実は古くから安価で質のいい加工でん粉として使われてきた。1873(明治6)年に、杉田玄白の曾孫であり、勝海舟の主治医でもあった杉田玄端が翻訳した「幼童手引草」にも「米「『ライス』とは」という問いの並びに「タピオカとは何物なりや」というQ&Aが載っているし、1927(昭和2)年には大蔵省が「内地でん粉業の保護」のため、安価だったタピオカ粉の関税率を1円から1円80銭へと引き上げている。 現在、世界的にもタピオカでん粉の消費量は急激に伸びており、2019年の消費量も対前年比4%増、とりわけアジアは昨年に引き続き、4.4%の伸び率と世界の市場を牽引する地域となっている。タピオカでん粉価格は2017年9月に1トン当たり345ドル(3万9675円)だったものが、2018年6月には同500ドル(5万7500円)と大幅に高騰。特に中国におけるでん粉需要が高いという。 昨今、食材において日本の「買い負け」を耳にすることが増えてきた。いまのところ高級食材が中心だが、日本では大衆食における客単価は低く、いきおい食材原価も抑えられる傾向が強い。海外からグルメを目的として来日する旅行客は多いが、話を聞くと外食費の安さを理由に挙げる人も少なくない。 原材料費の安いタピオカはコスト面においても参入障壁が低い。それゆえ参入ペースが加速し、ブームにつながっている側面もある。渋谷、原宿、青山……。数年先の若者の町の風景は、もしかすると食材の原料コストで変わっていくのかもしれない。
2019.06.23 16:00
NEWSポストセブン
行列のできるとんかつ店が増加
とんかつ店に行列 「ロゼ色勢」も「格安勢」も好調
 行列のできる店の動向は気になるもの。近年、特に元気なのがとんかつ店だ。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。 * * * 大衆食がブームだ。そういう話を聞くと、ちょっとした違和感を覚える。そもそも”大衆食”という言葉自体にも大衆に広く受け入れられるという意味も含まれている。”ブーム”と呼ばれるには、人気というだけでなく何か違いがあるはずだ。 この10年ほどで、その位置づけが大きく変わった大衆食と言えば、とんかつが揚げられ……いや、挙げられる(ああ、書いてしまった)。10年前にはいつでも入れるとんかつ店だったのに、この数年で行列必至となった店が後を絶たない。 象徴的なのが、東京・高田馬場のとんかつ店だ。1970年代から続く特ロースやカツ丼が旨い店は10年前は食事時でも待たずに入店できたのが、近年では20名ほど行列している光景をよく見かけるようになった。駅前の商業ビルの地下にある店や、新しくできたとんかつ店の前にも人が列をなしている。 流れを大きく変えたのは2010年に高田馬場にオープンした「成蔵」だろう。店主はこの春、令和直前に高田馬場の店舗を弟子に引き継ぎ、いったんのれんをおろしたが、この店の登場が日本のとんかつシーンの分水嶺だったと言っていい。 分厚いロースやヒレ(この店では「シャ豚(トン)ブリアン」と言う)を低温からじっくりと揚げ、内部がきれいなロゼ色に揚げ上がったタイミングで客に提供する。開店当初は客の認知を得るのに苦戦していたが、口にした客が客を呼び、ほどなく人気店に。客をさばきながら仕入れる肉やラード、揚げ方など全方位的に磨きをかけ、近年は長蛇の列への対応に苦慮するほどの人気店となっていた。 そして「成蔵」の行列が伸び始めたこの数年、都内に新しいとんかつ店が次々に開店した。 特に象徴的だったのが、内部をロゼ色に揚げるとんかつ店だ。リブロース、ロース、ヒレなど数種のかつを一口分ずつ揚げ、盛り合わせ定食風にしつらえた巣鴨の「亀かわ」(2017~2019年)はこの5月にのれんを畳んだが、その「亀かわ」の素地を作った、自称”とんかつマニア”という職人が揚げる神宮前の「七井戸」(2018年~)もそうだ。 ここにチェーン店も参入した。2017年、あの牛タンの「ねぎし」が手がける「ねぎポ」が有楽町から東京駅に向かうJRのガード下再開発飲食店街に入居。ロゼ色の断面と衣の白い「しろかつ」として絶賛売出し中だ。 元気なのは、味わいを追求するロゼ色勢だけではない。ふだん使いできるリーズナブルなとんかつ店も人気だ。両国や御徒町、高田馬場などにはロースカツ定食が700~800円で食べられるとんかつ専門店があるし、チェーンで言うと「かつや」はロースカツ定食を690円で提供。さらに近年、牛丼の「松屋」が展開し始めたとんかつ業態、「松乃家」に至ってはロースカツ定食を530円で提供している。「ロゼ色」と「格安」だけではない。明治38年創業の御徒町「ぽん多本家」をはじめ、「ポンチ軒」「旬香亭」などの洋食勢のとんかつの人気も高い。 1970年代以降、何度かのブームやトレンドをくぐり抜け、「ロゼ色」「格安」「洋食」などのカテゴライズも細分化され、日常の外食としてのとんかつは完全に定着した。令和はいよいよとんかつが「文化」として昇華される時代なのかもしれない。
2019.05.19 16:00
NEWSポストセブン
ハイボールの人気は衰えない(写真:アフロ)
ハイボール人気で原酒不足 「代酒」を味わう愉しみも
 品薄だからと買い占めに走るのはそれこそ品がない。探せば別の愉しみ方もある。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。 * * * ハイボール人気が止まらない。といっても、この10年ほど右肩上がりに加速しているウイスキーソーダ=ハイボールの話だけではない。加熱する人気は、酒造会社を舞台としたNHKのドラマ「マッサン」などによってさらに爆発的な勢いがつき、まさかの原料不足に陥るまで加速した。 都内でハイボールを中心とした、カジュアルなバーを営む飲食店の店主は現状をこう嘆く。「うちの酒はサントリー系が多いんですが、人気の高い『山崎』や『白州』はノンヴィンテージのレギュラー酒を入荷するので精一杯。長く使うメニュー表には『響』も載っていますが、もうずいぶん前から販売休止シールを貼っています」 ウイスキーは熟成に年数がかかる。急激なハイボールブームを受けて、この数年、「白州」、「響」といった高級酒の「○○年モノ」ヴィンテージは次々に休売に追い込まれてきた。昨今はレギュラー酒にもその波が及んでいる。サントリーは今年1月「白角」が休売となり、同時にコンビニ向けの「知多」(350ml)、「角瓶」(450mlも販売休止に。他メーカーでもキリンの「富士山麓樽熟原酒50度」も休売に追い込まれた。 しかしハイボール人気はもはやブームの域にはとどまっていない。「リーズナブル」「糖質オフ」などの追い風を受けて、完全に飲酒カテゴリーとして定着。「とりあえず、ハイボール!」という言葉も日常のものとなるほどの定位置を獲得している……。にも関わらず、原料ウイスキーは不足していて、ハイボール人気を受け止めきれていない。となると、「ワシの出番や」と意気込む代打ならぬ、”代酒”登場の流れがある。 例えばベテラン組で言えば、宝酒造の「焼酎ハイボール」。実はこのアイテムは2006年、まだハイボールブームが到来する以前に発売されて以来、地道に販売量を伸ばし、2009年のハイボールの再ブレイクとともに存在感を示した。この23日からも「強烈パインサイダー割り」という炭酸ガス圧の強い期間限定アイテムの投入を予定している。ちなみに「チューハイ」の語源は「焼酎ハイボール」の略語だとされる。 先月発売された「トーキョーハイボール」(合同酒精)は戦後にウイスキーの代用として下町を中心に人気を博した飲み方を再現したもの。焼酎に、色が琥珀色になる梅シロップを加え、炭酸で割った「ボール」と呼ばれていた飲み物。戦後、ウイスキーを入手できない日雇い労働者などの間で流行ったが、昨今では「下町ハイボール」として若年層にも受け入れられている。 単なる”代酒”ではなく、小規模醸造所が自社ウイスキーを活用して新たな商品開発につなげるケースもある。先月、富山県砺波市の若鶴酒造が発売した缶ハイボール「ハリークレインズ クラフト ハイボール」は350ml缶で390円(税別)と大手のハイボールの2倍以上の値づけでリリースした。とかく値ごろ感ばかり追求されるハイボールに”ハイエンド”、”クラフト”という新しい概念を持ち込もうとしている。 大手も原酒不足に手をこまねいてばかりいるわけではない。サントリーはスコットランドやアメリカ、日本などの複数国の原酒をブレンドしたウイスキー「碧」を発売。さらに海外に目を向ければ、以前、台湾のウイスキー醸造メーカー「KAVALAN」も現地で缶ハイボールを発売していたと聞く。 コンビニなど、日常で見かけるいつもの缶ばかりではない。そういえば昨秋、KAVALANの醸造所を訪れたが、味、価格、ラインナップとも素晴らしく、危うく免税枠を超えて購入しそうになってしまった。その他、インドやオーストラリア、ニュージーランドなど台頭しつつある国のウイスキーを入手して自宅でハイボールを作るのもいい。空前の原酒不足だからこそ、開くことのできる扉がある。
2019.04.07 16:00
NEWSポストセブン
パクチー人気の後を追うクミン 新スパイスブームを牽引
パクチー人気の後を追うクミン 新スパイスブームを牽引
 あるのとないのとでは大違いなのがスパイス。こだわりを持つ食通は増えている。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。 * * * 改元が行われる今年はスパイス&ハーブ文化元年となるかもしれない。そう思えるほどスパイス&ハーブの使い方が巧みな飲食店が増えている。 3年前の本稿で「パクチー出荷が5年で3倍増 ついに今年ブレークか」という記事を書いた。それ以前は一部の好事家のものだったパクチーが、この頃から大衆のものになった。その後、実山椒ブームなどを経て、料理店で使われるスパイス&ハーブの存在感は増すばかりだ。 とりわけ、中華やアジア系の料理に使うスパイスの人気が高い。パクチーの後を追うようにこの数年爆発的な人気となっているのがクミン。カレーには必須の香辛料とされ、中央アジア料理や中国東北地方では、羊肉との相性のよさはつとに知られている。単体のスパイスとしてよく知られるようになったのは最近だが、その輸入量は2016年1894トン、2017年2389トン、2018年2654トンと、2ケタずつという急成長ぶりだ。 もともとクミンはカレーには欠かせないスパイス。当然カレー粉やカレールウの原料としての大手メーカー向けの需要もあるが、この数年、カレー粉のような市販の混合調味料では飽き足らず、自ら各種スパイスを調合して使う料理人がプロアマ問わず増えてきた。スパイスの世界は奥深い。 さらには羊ブームである。パクチー人気に火をつけた東京・神田の「味坊」が御徒町に羊肉を前面に押し出した「羊肉味坊」をオープンさせたのが2016年末のこと。以来、羊+クミンという組み合わせが完全に定番化し、以前からあった中国東北地方料理の店も賑わうようになった。 現代のスパイスブームをくくるキーワードは「細分化」と「引き算」だ。 スパイスやハーブは産地や品種によって微妙に風味が違う。例えば黒胡椒などは日本ではひとくくりにされるが、インド産だけでも、マラバル、テリチェリー、アレッピーといった品種があるし、インドネシアやマレーシアなどさまざまな国でそれぞれの胡椒を生産している。 微妙な風味の違いを肉を扱うシェフが使い分け、白胡椒やピンクペッパーなど他の胡椒にも波及効果を及ぼした。胡椒は、2017年の輸入量は8193トンだったのが2018年には9485トンと急増している。 ほかにも山椒などは、ほんの数年前までならうなぎのための味変&臭み取りアイテムに過ぎなかったが、いまではさまざまな芳香を漂わせる山椒が入手され、料理に活かされるようになった。麻婆豆腐でしびれの「麻」を演出する中国山椒──花椒もいくつかの種類から選んで購入するマニアまで現れた。 スパイスやハーブも多彩になった。もちろんプロのシェフに至っては、よりマニアックな方向へと舵を切っている。中国や台湾、タイ、ミャンマー、ネパールなど現地でしか入手できないようなスパイスやハーブを独自のルートで仕入れたり、自ら現地に足を運ぶシェフまでいる。 ブームを越えた強いトレンドが可視化されるときには、水面下でさらに強い潮流が流れている。牛肉に胡椒、カレーやラムにクミン。ブームやトレンドが文化に至ろうとするとき、そのそばには必ず他のトレンドが寄り添っている。
2019.03.10 16:00
NEWSポストセブン
医師が「朝からアイス」を推奨
那覇市民はなぜアイスクリームをあまり食べないのか
 データをつぶさに眺めていると、不思議に見えることがままある。消費に偏りがありそうにもない食品で偏りが出ていたり、また思ったほどその地域には好まれていなかったり…。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。 * * * この2月、総務省の家計調査2018年版が発表された。直後、とあるテレビの情報番組から取材依頼があった。「アメちゃん購入量、大阪より金沢が上位なのはいったいなぜ?」というような各地域の食事情の解説をしてほしいというもの。取材内容は番組がまとめてフリップで紹介されるということだった。 電話取材時には、それなりに筋道立てて話をしたつもりだったが、番組のほうでは駆け足になったこともあり、少し言葉足らずだった印象だったので、本稿で補足をさせていただきたい。 まず番組から聞かれたのは「那覇市民はアイスを食べない。いったいなぜ?」というもの。総務省の家計調査は全国の都道府県庁所在市及び政令指定都市を対象としているが、確かに那覇市は「アイスクリーム・シャーベット」に対する品目別支出金額(総世帯)は全国でもっとも少ない。全国平均が7771円に対して那覇市は4636円。 一説には「気温が30℃を超えるとアイスクリームは売れず、氷菓が売れる」という話もあるが、元の調査には「シャーベット」も含まれているし、いくら沖縄とは言え1年中30℃超えを記録しているわけではない。30℃超えは真夏の3か月程度。そもそもアイスクリームから氷菓に流れるなら、そこまで支出が減るとも考えにくい。 どちらかというと乳脂肪分の多い製品が全般に人気薄なのは確かなようで、バターは全国平均835円に対して那覇市436円とこちらも最下位。「他の乳製品」という項目も、全国平均399円に対して181円と少ない。ちなみに「他の乳製品」が何を指すかというと生クリームやホイップクリーム、コーヒー・紅茶用クリーム(植物性を除く)、練乳など。ついでに言うと牛乳も全国平均1万2229円だが那覇市は8836円と下から2番めだ。 乳酸飲料や牛乳など脂肪分の高い飲み物は、春から夏にかけて売り上げが伸びる一方で、盛夏は売り上げが伸び悩むとも言われる。乳脂肪分が多めの製品は、那覇市では忌避されがちと言っても差し支えないだろう。 さて冒頭に書いた「アメちゃん購入量 大阪より金沢が上位なのは?」の理由についても触れておきたい。「アメちゃん」については家計調査の項目では「キャンデー」となる。総世帯調査では全国平均が1806円で金沢市が2205円、一方大阪市は1666円となっているが、これは金沢の成り立ちを考えればむしろ当然とも言える。 実はキャンデーに限らず、チョコレートやビスケット、まんじゅうなどの小分類の甘味において金沢は上位の常連。もっと言えば「菓子類」という大きな項目も含めて甘い物に目がない。 そもそも江戸幕府開府の頃から、加賀藩が茶道に力を入れたことから、高度な菓子文化が生まれ、独特な形で花開き、根付いていった。現在では京都市や松江市と並ぶ「日本三大菓子処」としても知られる。約400年もの間、「菓子と茶」という甘味と苦味の伝統はいまも引き継がれている。 その他の質問項目では「小麦粉購入量、長野が1位、大阪は下位なのはなぜ?」という項目もあった。 そもそも長野は「おやき」「だんご汁」「すいとん」などの家庭における粉食文化が盛んな地域。古くからから米と麦の二毛作が行われていて、粉食を常食としてきた地域だ。米は年貢や販売用、麦は家庭の食事用という棲み分けで「粉食」が生活にも根づいていた。 加えて家計調査はあくまで「家庭での消費」なので、外食はカウントされない。俗に「粉モン文化」などと言われる大阪では、お好み焼きやたこ焼き店など外食店が充実している都市部では、自家消費用の食材・素材は伸び悩む傾向がある。 ちなみに小麦粉で言うと奈良、大津、京都、大阪、神戸あたりはパンに年間2万8000~2万9000円前後を支出するが、長野は2万3411円にとどまる。逆に長野はうどん・そば、スパゲッティ、中華麺など麺類全般について消費支出が多い。同じ小麦粉を原料とする食品でも、地域に育まれた文化によって消費者の嗜好は変わっていく。
2019.02.24 16:00
NEWSポストセブン
今年は値頃の白菜 鍋どころの関西圏での消費が群を抜く
今年は値頃の白菜 鍋どころの関西圏での消費が群を抜く
 われわれが日々口にする野菜も、実は地域によって消費量にかなり差が出るものだという。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。 * * * 冬を代表する食べ物と言えば鍋物。それだけに鍋物に入れる具材への支出は、冬場にぐんと伸びる。総務省の家計調査(二人以上の世帯。2015~2017年平均)によると、鍋物野菜の代表選手、白菜への消費支出は夏場には月間50円を切るが、肌寒くなる秋口から支出が急増し、冬場には月額200円を超える。 ところが、今年は生産量が潤沢なのに、暖冬の影響もあって消費動向が鈍い。東京中央卸売市場における主要な野菜の入荷量と平均卸値の価格を見ると、全般に入荷量は好調だが、鍋物野菜の平均卸値は下落している。白菜は前年同期比で入荷量プラス27%だが、卸値はマイナス77%。大根は入荷量プラス30%で卸値マイナス57%。ほかキャベツ、ネギ、えのきだけなどの鍋物野菜が軒並み入荷量増、卸値下落となっている。 となれば、当然店頭価格もお値ごろになる。都内のスーパーでは前年同時期よりも「3~4割安くなっている」というが、それでも鍋を囲む機会が少ないからか、品物の動きは鈍い。 総務省の家計調査の対象となる都市は、全国の都道府県庁所在市及び政令指定都市だ。白菜を多く消費する都市の上位は軒並み鍋どころ。前出の2015~2017年の調査平均では、消費上位5都市は堺市、京都市、神戸市、北九州市、大阪市の順。堺市、大阪市を擁する大阪府は「てっちり鍋」「はりはり鍋」、神戸市の兵庫県では「ぼたん鍋」といった名物鍋がある。京都なら「鳥鍋」、北九州なら「もつ鍋」などそれぞれの地域に独自の鍋がある。 他の調査でも、関西圏は白菜の消費が群を抜いている。2017年の家計調査(総世帯)では全国平均は1201円だが、近畿圏の平均は1587円。京都市1728円、奈良市1725円、和歌山市1687円、大阪市1532円。いずれも、全国平均よりも3~4割消費支出が多い。鍋料理にまつわるさまざまな過去の調査でも、鍋料理の頻度は関東よりも関西のほうが高いという結果が出ている。白菜消費をけん引しているのは、関西なのだ。 逆に関東のほうが消費をけん引している野菜もある。サラダのような生食に使われることの多い、レタスやトマトといった野菜だ。レタスの消費支出の全国平均は2035円だが、関東は2341円(近畿2002円)、トマトは全国で6656円のところ、関東では7521円(近畿6826円)と関東圏が強い。とりわけ東京9254円、さいたま市9180円と首都圏人はトマト消費についてはカネに糸目をつけない様子が窺える。 もっとも家計調査は使い方までは調査しておらず、レタスやトマトを生食用と定義づけるのは早計に過ぎるかもしれない。なぜなら昨今では、新感覚の鍋の人気も高まっているからだ。例えばレタスしゃぶしゃぶ、例えばトマト鍋といった鍋の人気も高い。万が一かもしれなくとも、こうした鍋がトマトやレタスの消費を押し上げている可能性だってゼロではない……かもしれない。
2019.02.10 16:00
NEWSポストセブン

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