同時に、普通は事件が起きてから探偵が来ますが、金田一の場合は、彼が来てから事件が起きます。それはお客さんの目でもある。ですから、彼は決して物語の中には入れません。
だから、他の探偵と違って未然に防ごうとしない。止められなくて悔しがるけど、その一方で止めちゃいけないとも思っているんです。普通の探偵だと事件が起きてもそんなに苦しまないんですが、彼は苦しむ。その結末はどうなるかを既に知っているのに、何もできないから。
それで、最初の時は演じていて足りない所があったんです。物語に入り込めない苦しさを演じたかった。ですから、リメイクの時はそれをやりたいと思いました。『彼は孤独な男なんです』と言ったところ、監督は『天使なんだから孤独で当たり前だ』と。
最後に別れの挨拶をするのも『もうこのシリーズはやらない、と思われてしまうから』と監督は嫌がっていました。僕としては、事件現場に向かって、死んだ人も含め『あなたたちと一緒に行けなくてすみません』という感じにしたかった。
それでも撮影を進めている時も『彼の孤独を癒してやる場面をできませんかね』と食い下がりました。その時は、監督は何も返してはきませんでした。そうしたら最後、あの場面を撮影する時になって監督が『撮ろう』とおっしゃったんです」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。主な著書に『天才 勝新太郎』、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)など。本連載に大幅加筆した単行本『役者は一日にしてならず』が2月23日より発売!
※週刊ポスト2015年2月27日号