全国15か所にしか開設していない水素ステーションとFCVは「鶏と卵の関係」と言われる。ステーションがないとFCVは普及しない、いや、FCVが一般化していないからステーションは普及しない。
だが、「どちらが先かが問題なのではない」と考えていた豊田は、これを「ミツバチと花」と言い換えて表現した。ミツバチと花、双方が助け合いながら普及していくことが必要だという意味だ。
「実際にMIRAIという具体的な製品を出して以後、インフラ面でも政策面でも動きが活発になってきた実感がある」と田中は言う。
「化石燃料は将来的になくなっていくだけではなく、政情が不安な地域で多く産出され、争いも起こってきた。資源がそもそもない日本にとって、下水からでも作れる水素は非常に重要なエネルギーの一つになる。私たちの文化的な生活を将来にわたっても維持するための一つの方法として、この車が水素社会をイメージするきっかけになることを期待しています」
文■稲泉連(ノンフィクションライター)
※SAPIO2015年5月号