大学の正規教員はバカ高い学費のおかげで優遇されているから、「ブラックバイト」について触れる権利はない、とは言わない。そんな言論狩りをしたいとは思わないが、あんまりにも無邪気に論をぶたれると、あー、特権階級がご高説を垂れてるよ、と腐したくなるのだ。彼らにはせめて、「ブラックバイト」の裏側には学費高騰の問題が貼りついていることにも言及してほしい。
これが「ブラックバイト」を語る(伝える)発信源の二者目なのだが、では、もう一者は誰か。新聞社である。
POSSE関係者、そして大学の学者が「ブラックバイト」についてどんどん発信していくうちに、全国紙から地方紙まで、たいていの新聞がこの問題を報じるようになった。普通に報じるだけじゃなくて、朝日新聞がキャンペーンのように連続して取り上げたり、毎日新聞「ブラックバイト 苦しむ学生放置できぬ」、東京新聞「ブラックバイト 大学生を使いつぶすな」と社説で声を張り上げるようにもなった。
〈厚生労働省は労働条件の事前確認などを促す冊子を全国の大学に配布した。業界への指導も求めたい〉(毎日新聞)
〈各大学は夏休み前にガイダンスを開き、注意喚起をしてほしい。ブラックバイトの被害から、若者たちを救おう〉(東京新聞)
どの口で言ってるんだ、と反射的に怒りがわいた。だって、「元祖ブラックバイト」はどう考えたって、新聞奨学生でしょう。
私は新聞奨学生制度を全面否定する者ではない。が、この制度を使って大学や専門学校に進学した結果、夜中の2時起床にはじまり、午後は夕刊配りで束縛され、さらに集金活動ほかもろもろの仕事が山積みで、学業どころでなくなってしまった学生を何人も見てきた。
勤め先の販売所によってブラック度合いの差は激しいが、ダメ販売所に当たると担当の集金の未回収分を天引きされて、給料がほとんどなくなる。その苦難を乗り越えて文字通りの苦学生として立派な社会人になった人もいるが、新聞奨学生時代が辛すぎて社会からドロップアウトしてしまった人もいる。どちらかといえば、後者のほうが目立つ。偏見だと感じたら、参考にググっていただきたい。「新聞奨学生」 「実態」あたりのアンド検索で。
彼ら奨学生のおかげで、日本の新聞社は宅配制度を維持し、巨大な部数を確保してきた。定期購読者である私も宅配制度の恩恵に浴してきたが、もっともウマミを吸って来たのは安定した高給取りの新聞社正社員、なかでも新聞記者だ。新聞記者に販売店や奨学生の話をふると嫌な顔をされるものだが、そこから「ブラックバイト」を連想する者はどれだけいるだろう。連想できたら、偉そうに〈業界への指導も求めたい〉とか、能天気に〈若者たちを救おう〉とか、書けないはずだ。
一言でいうと、当事者意識の欠如にもやもやするわけである。ナメんなよ、と睨みつけたくなる。「ブラックバイト」体験者は、そういうやつらが跋扈する不条理な世の中の仕組みを実感したはずで、それを糧にたくましく世渡りしてほしいのだ。