◆性善説でネット民に接していた広告業界
今回ツイッター上で指摘があり、納得したのがネットに「佐野研二郎」と書かれると叩きで、「サノケン」と愛称で書かれると擁護である、というものです。業界関係者からは「何も分かってない連中を見返してやれ」みたいな意見も出ました。そうなんですよ。この「身内感」「上から目線感」というものが、ネットでは極度に嫌われます。それは特に、普段から上流階級的生活をしている人が一致団結し、匿名の愚民どもに呆れかえっている様子をネット上で見せられてしまうと、むしろさらに反発したくなってしまう。
普段、広告業界ではネット民との「エンゲージ」を求めたいと考えます。「エンゲージメント」は「婚約」のことで、「エンゲージ」といえば「強い繋がり」といったところでしょうか。しかし、ネットユーザーが企業と付き合いたい時は、「何か無料でもらえる」「何かトクする」「とにかく面白い」程度です。企業の側の片思いなワケです。
広告業界人はどことなくネット民に対して性善説で接していたところがあります。それは、恐らく苛烈なる炎上を経験したことがなく、業界内でまったりと交流し、著名クリエーターであれば、ツイッターのフォロワーが数千~1万台いて、心地良いコメントのシャワーを浴びていたからでしょう。仲間と一緒に高級店でおいしいワインを飲み、ムール貝やレバーのパテを食べる姿をSNSで披露し「おいしそー!」と言われたり、業界トレンドについて有益な情報収集していたため、一般社会からは隔離され、上品なサロンがそこでは展開されていた。プライベートから離れ、キャンペーンの仕事でSNSを活用する場合でも基本的にはプレゼントやモニター等「何かをあげる」企画なわけだから「ありがとうございます!」みたいなコメントが多数寄せられる結果となります。
しかし、ネットってのはもっとえげつない世界であり、これまでが温室過ぎた。後は、著名クリエーターが援軍を出してしまうと、匿名のネット民にとっては「また叩けるおもちゃがやってきたぞw」となり、もはや収拾不能になり、傷つく人が増えてしまう事態となります。前出の佐野さんを擁護した業界人に対してはバッシングと共に業界関係者からの温かい激励のコメントも多数寄せられ、その方は感謝していました。しかし、このやり取りでさえ、ネット民からすると「またハイソな連中が傷をなめ合いやがってる」「また上から目線で特権階級ごっこをしやがってる」という感想を抱きます。