海港城マンションは敷地約4万平方メートルで44棟に3100世帯、8000人以上が住んでいる天津有数のマンション地区だ。爆風のすごさを物語るように、ほとんどのマンションの窓が吹き飛び、黒い空洞がぽっかりと口を開けていた。
内部はガラスやドアなどの建築材料の破片が飛び散り、冷蔵庫やテレビ、タンスなどの電化製品や家具が倒され、足の踏み場もないほどに破壊された。事故発生当初、住民は大地震と思い、だれも大爆発とは思わなかったというほどだ。住民2人が死亡し、多数が負傷した。
「死者が少なかったのは、爆発発生時刻が深夜で、住民のほとんどはベッドに横たわって寝ていたためだろう。住民が活発に活動している夕方から夜にかけてか、通勤通学時の朝だったら、もっと被害者は多かったはずだ」とある地元住民は語っていた。
保険会社の説明会では、天津市政府の担当職員も参加して、「賠償額は一時金として2万元(約40万円)を払い、市政府は住民が買った際のマンション価格の1.3倍で買い取る」と説明していた。マンション価格に0.3倍を上乗せしているのは、中国では通常のマンションの場合、内装は買った後に住民の負担で行うほか、家具や電化製品、ローンの利息などを考えてのうえのことだ。
さらに、市政府ではマンションを買い取った後、当面の生活費として6000元(12万円)のほか、新たに入居するマンションの家賃を少なくとも2か月間立て替えることも保証している。
しかし、住民の間では「このマンションは数年前に買ったときに比べて3倍以上になっている。少なくとも4倍以上で買って欲しい」とか「そんな、はした金ではとてもダメだ」「爆発の原因の究明は進んでいるのか」などと政府の対応に対する不満の声が続出していた。
とはいえ、国有企業に勤務する李栄華さん(仮名)は「会社の上司から、『市政府の補償を受け入れないと、会社としても難しいことになる。君が会社を辞めても良いのならば、話は別だが……』と言われ、泣く泣く補償を受け入れた」と明かすなど、被災者には有形無形の圧力がかけられているようだ。
※SAPIO2015年11月号