2つ目の理由は、同時受賞したピース・又吉直樹さんとの比較。喜びも欲もあまり発散しないキャラの又吉さんに対して、羽田さんは感情表現から私生活まで全てが強烈でした。受賞時は「又吉じゃないほう」という扱いだったメディアが、「こっちのほうが面白い」「どんな番組でもハマる」とこぞって飛びついたのです。実際、当初は朝のワイドショーでの紹介など作家としての扱いでしたが、すぐさまバラエティー番組要員に変わりました。
“文化人枠”として情報番組のコメンテーターになるほうが自然なのに、芸人以上にバラエティー番組への出演が増える一方の羽田さん。下半期だけで100本に迫る出演本数があることからも、作家という枠を超えて、「下半期で最もブレイクしたタレント」と言ってもいいのではないでしょうか。
最後にもう1つ、羽田さんの人気の秘けつは、どこかしら漂う残念さ。「合理性を求めて、鶏ハム4キロやカレー100人分作って毎日食べる」「ジョギングやウォーキングは体に何も残らず意味ないから、筋トレしかやらない」と言い切りながらも、「その合理性に行動を縛られて不自由さを感じる」と苦笑い。『Qさま』(テレビ朝日系)や『ミラクル9』(テレビ朝日系)などのクイズ番組に出演するとコテンパンに負けますし、芥川賞発表当日のデーモン閣下風メイクも含め、常に負の魅力を漂わせています。このどこかしら漂う残念さは、先述したマツコさん、松岡さん、蛭子さんにも共通することであり、羽田さんも同じように「面白くて憎めない人」という存在なのでしょう。
今後、羽田さんはどこまでバラエティー番組に出続けるのか、それとも潔く作家業に戻るのか。その場合でもこの人なら、ここ数か月の体験を生かした小説を書くなど、抜け目ない姿を見せてくれる気がします。すでに次の芥川賞発表も来月に迫っていますが、羽田さんの出番はまだまだ減らないでしょう。
【木村隆志】
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者。テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』(TAC出版)など。