◆獰猛な大型犬も飼育可能に
今回の改正で、マンションの管理規約は、議決権を多く持つ人の意に沿った変更がされやすくなったと言える。これは、マンション住民間に、新たなトラブルを生み出す懸念をはらんでいる。たとえば、駐車場の割り当て問題だ。
「敷地内の駐車場の数が全戸数の半分くらいしか用意されていないマンションは多い。専有面積の広い住戸が優先して利用できるという管理規約を持つマンションはすでにありますが、今後、同じように規約を変更するところが増えかねません」(土屋氏)
そうなると、それほど広い部屋に住んでいない人は敷地内の駐車場を使えず、高い利用料を支払って近所に駐車場を借りなくてはならなくなる。維持できなくなって車を泣く泣く手放すことになったとしても、話はそれでは終わらない可能性も。
「月々の管理費が高くなるかもしれません。物件の資産価値を上げるため、手厚いサービスを売りにする管理会社に変え、1階にはコンシェルジュを置き、エントランスには24時間態勢でガードマンを常駐させるようにすることも可能だからです。資産価値は大規模修繕を頻繁に行なうことでも上がりますから、議決権を多く持つ人がそれを望めば、修繕積立金が大幅にアップすることも考えられます」(同前)
管理費や修繕積立金の値上げは、高所得者にはさほどの負担ではないだろうが、低所得者の肩にはずしりと重くのしかかる。
管理規約が変われば、高所得者しか飼えないような大型犬の飼育が可能になるかもしれない。散歩帰りのドーベルマンとエントランスで鉢合わせし、ガブリと噛みつかれる──なんて事故が起きてしまうことも考えられる。
もっとも、現行の管理規約が変更されなければこういった状況にはなり得ないのだが、変更自体はそれほど難しいことではない。
「管理規約を変更するには、全住戸の4分の3以上の区分所有者が賛成する必要があります。しかし、管理組合総会への出席者は、300戸ある大規模なマンションでも100人を切るような状態がほとんどで、委任状を提出して理事長に一任する人が多いのです。
これでは、悪意ある居住者たちが『自分たちの都合のいいように改訂しよう』と結託しても気付かないのではないでしょうか。知らぬうちに規約が改悪されていた、ということにもなりかねません」(榊氏)
気付いたら毎月の出費が跳ね上がり、不利なルールがたくさんできていた、となっては手遅れだ。
※週刊ポスト2016年4月22日号