きだの代表著作なら『気違い部落周游紀行』だから、これを取り上げないわけにはいかない。これをはずすとして、それなら『気違い部落紳士録』はいいのかといえばそれも駄目で、『気違い部落の青春』も駄目、『東京気違い部落』も駄目、『気違い部落から日本を見れば』も駄目。しょうがないので『にっぽん部落』や『ニッポン気違い列島』を挙げてもやっぱり駄目。

 断っておくが、この「気違い」は精神疾患のことではないし、この「部落」は被差別部落のことではない。『気違い部落周游紀行』は岩波書店の「世界」に連載されたものだし、毎日出版文化賞も受賞している。『にっぽん部落』は岩波新書だし、「きだみのる自選集」(全四巻)は読売新聞社の刊行である。きだ原作を脚色した『気違い部落』が渋谷実監督で松竹から映画化もされている。

 それなのに、現在きだみのるを論じることもできない。日本は気違……おっとっと、この原稿も没になるかな。

●くれ・ともふさ/1946年生まれ。日本マンガ学会前会長。著書に『バカにつける薬』『つぎはぎ仏教入門』など多数。

※週刊ポスト2016年7月1日号

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