間渕さんは中津川市民病院の「病院前救急診療科」の麻酔科医だ。四方を山に囲まれ、中心部を木曽川が流れる中津川市。見渡す限り山の中の、その山の中にそびえるといってもいい市民病院は、約8万407人の市民の命を預かる存在だ。

 いや、市民だけとは限らない。中央自動車道および中山道、つまり国道19号線という幹線が市内を横断することから、交通事故も多く、全国の人々に接する日々だ。

 私たちの取材の前日、午後9時前にも緊急出動の要請があった。待機宿舎からドクターカーを走らせた間渕さんの目に飛び込んできたのは、大破したトラックと意識不明の重体となった運転手。前後して到着した救急車にけが人を収容、間渕さんは応急手当をしながら、約60km離れた緊急手術に対応できる愛知県春日井市の総合病院まで付き添った。

「手術によって持ち直したそうです。46才だといいますから、回復すればまだまだ働いてもらえるし、ご家族のためにもほんとによかった」

 翌日、報告を受けた間渕さんは気さくな名古屋弁のアクセントで言う。

「救急の患者さん、とくに事故の場合って、名前はおろか年齢も病歴もなんにもわからんことだらけ。それで救急処置をするんですから、そりゃ、緊張しますよ」

 本来、麻酔科医の仕事場は、清潔で明るく、医療設備も器具もスタッフも整った手術室だ。事前に患者の病歴や容体やリスクなど充分に検討して、決められた時間に手術室に入ればいい。それにひきかえ、

「ドクターカーの現場は狭い、暗い、暑い、そのうえ雨でも降っていたら、正直いってものすごく大変(笑い)。で、手持ちは限られた道具と医薬品でしょう、急場しのぎなんですよ。でも、それで命が救えると思うと、逆に魅力があるというのかなあ。一期一会ともいえますが、医師でも“こんなのかなわん”と言う人もいるし、なんとなく燃えちゃう人もいる、2つに分かれるんでしょうね」

撮影■浅野剛

※女性セブン10月27日号

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