業績の数字は一時、リコールの嵐に見舞われて苦境に立たされた時に比べれば回復しているように見えるが、「これは度重なる出費の節約や、研究所での正社員比率の削減や賃金抑制で益出しをした結果で、内情は全然良くない。そういう策を打たなければ日本部門の単独決算は赤字になってしまうくらい」(本田技術研究所関係者)というのが実情だという。
それが生みの苦しみであればいいのだが、「研究所では競争に勝つための将来技術の種をいっぱい用意してストックしておくものなのですが、そのストックが今、枯渇している」(前出の関係者)というのだから、心中穏やかでいられないのも無理からぬところだ。
500万台規模にホンダはこのままだと、いずれ2大勢力に挟まれて投降するしかないのか。
実は、そうと決まったわけではない。その生死を分けるのは、実はホンダの頑張りではなく、冒頭に述べた自動運転やIoTなどクルマづくりの先端技術分野のトレンドがどう推移するかにかかっている。
今日、巨大グループが世界で続々と誕生したり、自動車メーカーとIT企業が提携したりしているのは、それらの技術をグループ単独で作り上げなければクルマが作れなくなるという恐怖心に押されてのことだ。
こうした動きは今回に限らず、今までも何度もあった。例を挙げればきりがないが「ハイブリッドを作れなければ終わり」「燃料電池車を作れなければ終わり」といったものである。
だが、技術開発ができなかったために企業が命運を絶たれたという例は、実際にはほとんどない。今回、スズキはトヨタと提携したが、これは何かあったときに“トヨタの傘”に守ってもらおうという安保的な意味合いが濃い。スズキはすでにいくつかのハイブリッドシステムを実用化し、市販車に搭載しているのだ。
スズキのような小さなメーカーがそれを成し得たのは、巨大部品メーカーとの関係をうまく構築したということが大きい。クルマの先進技術はいつの時代もすごいもののように感じられるが、それが広く大衆車に普及する絶対条件は、価格が安くなることだ。
1社が圧倒的にすごいものを作っても、それが独占的で価格が高いうちは、メジャートレンドにはならない。どんな技術であっても、社会的ニーズが高まれば必ず競争が起こり、コモディティ化(技術の普遍化)が進み、価格が安くなる。
そうなったときに技術を持つサプライヤーと協業すれば、生き残りに必要なものは手に入る。これまでのその法則を考えれば、IoTや自動運転であっても、いずれはそうなる公算が強い。
ホンダのこれまでの戦略を見ると、そのトレンドを先取りしようとしていた形跡が濃厚に伺える。