日本人は古(いにしえ)より、調理のうえでだしを何より大切にしてきた。料理によって、だしの素となる食材や取り方まで変え、それを当たり前のことと思ってきた。だからこそ、だしのことをちゃんと知っておきたい。
そもそも、だしとは何か。昭和女子大学教授で管理栄養士の秋山久美子さんに聞いた。
「だしとは、野菜や海藻、肉、きのこ類といった天然の食材から、“うま味成分”だけを煮出した液体をいいます」
うま味成分には、主に昆布などの海藻や野菜から取れる“グルタミン酸”、かつおぶしなどの魚や肉から取れる“イノシン酸”、干ししいたけなどのきのこ類から取れる“グアニル酸”の3つがある。これらはアミノ酸と核酸の一種だ。ではこの“うま味”とは一体なんなのか。
◆コクと深み 後味のよさを引き出す
“うま味”を“おいしさ”と勘違いする人が多いが、それはまったく別のもの。
「うま味とは、甘味や酸味、塩味、苦味と同じで、味の基本となる構成要素“基本味(きほんみ)”の1つ。基本味は、ほかの味を混ぜても作れない、独特の味をいいます」とは、味の素の二宮くみ子さん。
実際、うま味成分が凝縮されているだしだけを飲んでも、味が薄く、おいしさはあまり感じられない。うま味成分自体がおいしいわけではないのだ。
しかし、だしを加えたみそ汁や煮物などの料理は後味がよく、おいしさを感じる。うま味には、味の余韻を長く残す効果があり、料理に加え、ほかの素材と組み合わせることで、真の実力を発揮するのだという。
「昆布からだしを取って調理する方法は、仏教の教えを基にした精進料理でも使われており、その歴史は1000年以上前にさかのぼります。精進料理は、肉や魚が使えないため、味が淡泊でした。しかし、昆布のだしを足すことで、味にコクや深みが加えられたのです」(二宮さん)
◆昆布、かつおぶし、干ししいたけが日本の3大“だしの素”