私が役人時代、財務省の重要な発表があった時、局長が課長クラスを集めて、「新聞各社の社説に、(財務省に対して)好意的な記事を書かせろ」と指示を出したことがある。

 財務官僚にとってメディア工作は重要な“仕事”だ。若手時代から記者クラブの記者にレクチャーしたり、資料を渡したりしてパイプを作っている。課長クラスになればデスクや編集委員、論説委員クラスに親しい記者がいるから、メディア工作を競い合わせたわけだ。各社から社説が出た後、局長は再び課長クラスを集めて新聞を並べ、

「この記事はよかった」

 など評点まで付けた。

 こうした手口は昔から変わっていない。3年前に消費税を8%に引き上げたときは課長ばかりか、次官以下の最高幹部が新聞社のトップに「ご説明」に回っていたほどだ。メディアはメディアで、霞が関の中でも特に情報が集まる財務省から常日頃“ネタ”をもらっているから、彼らの意向に刃向かえない。よって、財務省が宣伝する通りの危機説しか報じられない。

 しかし、もし財務省の言うように、国の表向きの借金を減らすために消費税率20%や25%に向けて増税すれば、それこそ大デフレが起きて日本経済は破綻するだろう。

 メディアも国民も、財務省の“危機デマ”に騙されてはならないのだ。

【PROFILE】たかはし・よういち/1955年、東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、大蔵省(当時)入省。理財局資金企画室長などを歴任。小泉内閣で竹中平蔵・経財相補佐官、安倍内閣で内閣参事官を務める。現在、嘉悦大学教授。『日本はこの先どうなるのか』(幻冬舎)ほか著書多数。

※SAPIO2017年3月号

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