2015年5月4日鎌倉駅東口の様子。江ノ電乗車待ちの人ga駅をはみだし


 江ノ電は1編成4両。ピーク時は12分間隔で運転している。全線が単線のため、電車の行き違いは駅でのみ。そうした事情もあり、江ノ電はこれ以上の増発ができない。また、ホームの長さが4両(腰越駅は3両まで)までしか対応していないので、1編成を長大化することもできない。

 輸送量を増やせない替わりに、江ノ電はバスを臨時増便するなどして対策を講じてきた。しかし、鎌倉中心部は道路が狭いためにバスをたくさん走らせると渋滞が起きてしまう。

 鎌倉市は観光客を分散するため、鎌倉駅から歩いて名所旧跡を巡る散策マップを作成。観光客に歩いてもらうことで、鎌倉駅の混雑緩和を図ろうとした。しかし――

「鎌倉を訪れる観光客には、江ノ電に乗ることを目的にしている方も多くいます。つまり江ノ電自体が観光資源になっているので、江ノ電に乗らずに徒歩やバスで~と分散を図っても効果が上がらず、限界があるのです」(同)

 江ノ電の混雑解消対策が暗礁に乗り上げる中、ようやく1日限定の社会実験という形で優先乗車は実現した。

 鎌倉市が社会実験の実施を告知すると、優先乗車証明書の交付を受けようとする人たちが1200人も市役所を訪れた。わざわざ1日だけの優先乗車のために市役所へ足を運ぶ。レアな優先乗車証明書を手に入れたいというコレクター的な人もいただろうが、沿線住民や通勤・通学者は優先乗車証明書を待望していた。ゴールデンウィーク時における江ノ電の混雑が、かなり深刻であることが数字からも伝わってくる。

 社会実験の実施日となった5月6日は、事前の天気予報では雨だった。そのため、当日の鎌倉を訪れる観光客は多くなく、鎌倉駅に長蛇の列は現れなかった。

 優先乗車対策が不調に終わったようにも思えるが、これで江ノ電の混雑問題が解決したわけではない。ゴールデンウィーク期間の混雑は毎年恒例の話であり、引き続き対策を講じていく必要がある。

 今回の実証実験が発表された際、市民から「1日だけではなく、もっと長い期間で実施してほしい」「(同じ鎌倉市内にある)和田塚駅や由比ヶ浜駅周辺の住民および通勤・通学者にも同様の優先乗車証明書を発行してほしい」といった要望も寄せられたという。

 鉄道の混雑対策というと、通勤・退勤ラッシュを緩和させることを主眼にしているのが一般的だ。しかし、公共交通は地元住民の足を確保することが第一義。それを踏まえれば、鎌倉市と江ノ電が試みた優先乗車という観光客対策は、ほかの路線や観光地にも波及する可能性は十分にある。

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