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《私の最初の晩餐》中村雅俊、慶応大学に合格した日に母が作った「人生でいちばん豪勢な“くずかけ”」

中村雅俊の忘れられないご馳走は、母が作る郷土料理

中村雅俊の忘れられないご馳走は、母が作る郷土料理

「最初に食べたご馳走はなんですか?」。子供の頃に母が作ってくれた料理、上京したときのレストラン、初任給で行った高級店……。著名人の記憶に刻まれている「初めて食べた忘れられない味」を語ってもらい、証言をもとに料理を再現するこの企画。今回は中村雅俊に、忘れられないご馳走を教えていただきました。

 23才でドラマ『われら青春!』に主演すると、自ら歌った挿入歌『ふれあい』のレコードが100万枚を超える大ヒット。衝撃のデビューから、半世紀にわたって変わらぬ人気を誇る中村雅俊さん。「俳優として太った役にも挑戦したいのですが、歌手としてはあんまりお腹が出ちゃうと……」。34本の連続ドラマに主演し、41枚ものアルバムをリリースしてきた中村さんは、目下の悩みのスケールも規格外なのである──。

 * * *
 故郷への思いを言葉にするのは気恥ずかしいところもありますね。ただ褒めるのは簡単だけど、それだけだと嘘になっちゃうし。俺が生まれ育った宮城県・女川町は、目の前に海、振り向けば山がそびえる漁師町でした。

 電車は単線で、しかも終着駅。人口は少ないのに飲み屋さんはそこら中にあって、騒々しく荒っぽい大人たちが行き交う。好きな土地だったし、親戚や友人に囲まれていましたが、幼い頃から「東京へ行くんだ」という気持ちは強く持っていました。

 1950年代、1960年代の女川では、お肉なんかはめったに食卓に上がりません。漁師町なので魚には不自由しませんでしたが、豚肉や牛肉はなし。ご馳走といえば鶏肉です。祝い事があるときには、家で飼っている鶏を祖母がつぶしてね。

 同じぐらいの年頃のかたには、庭でつぶすのを見たせいで鶏肉が苦手になった人もいるようですが、俺は全然。女川には、捕鯨基地がありましたから。大きなクジラを曳航した捕鯨船が戻ってくると、観光バスがやって来るんです。ウインチを使って、クジラを海から加工場のスロープまで引き揚げる場面になると、観光客の人たちが驚きの声を上げる。

 いざ、クジラを解体するときなんかは海が真っ赤になって、おこぼれにあずかろうと湾内の魚がウワッと集まってきます。そこへ俺たち子供たちが竿を振ると、もう入れ食い。そんな遊びをしていたので、鶏の解体程度じゃあ(笑い)。

慶應大に合格した日の晩、人生でいちばんのご馳走が

 おふくろが作る鶏肉入りの「くずかけ」は絶品でしたよ。幼い頃から「好きだ、好きだ」と騒いでいたので、祝い事となれば絶対にくずかけ。といっても、よほどのお祝いでないと鶏肉は入りませんし、具材の種類も控えめです。

 干ししいたけでだしをとることが多いようですが、わが家では昆布も一緒に使っていました。それから温麺【うーめん】は入れません。箸ですくったとき、いろいろな具材が混ざり合うように、野菜はぜんぶ細かくカット。片栗粉のとろみが温かさを保つので、厳しい冬にはもってこいです。しょうゆしっかりの味付けは、甘いおはぎと相性抜群でね。慶應義塾大学に合格した日の晩、人生でいちばん豪勢なくずかけが出ました。しいたけ、にんじん、ごぼう。豆麩にじゃがいも、こんにゃくまで盛りだくさんで、もちろん鶏肉入り。でも、おふくろとしては複雑な気持ちもあったと思います。息子が「田舎を捨てる」わけですから。

 東京で暮らし始めてからも、里帰りするたびにくずかけ。おふくろが亡くなった後は時折、妻が作ってくれます。もちろん、おふくろの味とは違います。若い頃はよかったですが、いまの年齢になるとちょっとは塩分を控えないとね。妻のくずかけは優しい味です。

お祝いの席はいつもおふくろが作る郷土料理「くずかけ」のレシピ

郷土料理の「くずかけ」

郷土料理の「くずかけ」

●材料(4〜5人分)
にんじん1/4本(40g) ごぼう10cm(30g) じゃがいも1個(100g) こんにゃく1/2枚 干ししいたけ15g(4枚) 油あげ1枚 豆麩10g(適量) 豆腐1/2丁 鶏もも肉160g さやいんげん6本

A[だし昆布6g、水4カップ、干ししいたけの戻し汁1カップ]
※干ししいたけは2カップの水につけてゆっくり戻す。
※だし昆布は水につけ1時間おき、取り出しておく。

B[しょうゆ大さじ2、みりん大さじ1、塩小さじ1 水溶き片栗粉 片栗粉大さじ2強、水大さじ4]

●作り方
【1】にんじんは皮をむいて5mm厚さのいちょう切りにし、じゃがいも・こんにゃく・豆腐・鶏肉は1cm角に切る。油抜きした油あげは縦半分に切り5mm幅の短冊切りにする。
ごぼうはささがきにして酢水にさらす。干ししいたけはせん切りにする。豆麩は水で戻して絞っておく。
【2】さやいんげんはさっと塩ゆでしてからななめ4等分に切る。
【3】鍋に油あげと豆麩以外の【1】と[A]のだしを入れて強火にかけ、煮立ったら火を弱めて具材に火が通るまで10分ほどあくを取り除きながら煮る。
【4】[B]の調味料、油あげ、豆麩を加えて火を強める。ひと煮たちしたら【2】と水溶き片栗粉をまぜ入れ、とろみをつける。

●POINT
水溶き片栗粉は煮汁が煮たっしているところに加えて、しっかりと火を通す。

94才で亡くなった母やい子さんとの一枚。「父が急逝したのは、俺が4才のとき。女手ひとつで育て上げてくれてね。全国ツアーの最中だったけど、最期のときを一緒に過ごせてよかった」(中村さん)

94才で亡くなった母やい子さんとの一枚。「父が急逝したのは、俺が4才のとき。女手ひとつで育て上げてくれてね。全国ツアーの最中だったけど、最期のときを一緒に過ごせてよかった」(中村さん)

【プロフィール】
中村雅俊/俳優・歌手。1951年、宮城県生まれ。慶應義塾大学卒業後、文学座に入所。翌年には日本テレビ系の連続ドラマ『われら青春!』の主役に抜擢された。2011年の東日本大震災以降、たびたび故郷の女川町を訪れ、復興活動にも力を注いでいる。

中村雅俊芸能生活50周年記念公演
昭和歌謡音楽劇 『 どこへ時が流れても〜俺たちのジュークボックス〜 』と、コンサート『MASATOSHI NAKAMURA LIVE -look back with smile,look ahead with pride.-』による豪華2本立ての構成。6月2日(日)から18 日(火)まで、東京・明治座で開催。

写真/深澤慎平 料理・スタイリング/柳瀬真澄

※女性セブン2024年5月30日号

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