〈ここにあるものは(中略)記憶である。または残像でもある(中略)好いものが失われる。それをなくすなということを声高にするつもりなど毛頭ない(中略)ただ一言いっておきたいのは、「寂しい」ということなのである〉
記憶が消されることへの愛惜の念。そこには時流や流行へのささやかな抵抗もあるのではないか。50枚ほどの写真にはほとんど人が写っていない。だが、「兵どもが夢の跡」ではないが、その光景の中で生き生きと生きた人間の息吹が伝わってくる。淡淡とした、しかし哀切漂う文章も魅力的で、ページをめくるうちに、迷宮に遊ぶような錯覚を味合わせてくれる。
※SAPIO2017年6月号