松木氏は、なんとハンドという反則の原因を「ボールが悪い」と分析したのである。さらに後半40分、残り5分で2点のリードを保っているとき、FW岡崎慎司がハンドをしたが、そこに松木氏はこう一言添えた。
「岡崎のトラップのハンドも、ベテランっぽいハンドだよね」
普通の解説者なら何気なく流してしまうシーンで、松木氏は自分の持ち味を存分に発揮した。ベテランっぽいハンド──。
「一見、よくわからないと思われるかもしれません。だからといって、『ベテランならハンドしないように、上手くトラップするのではないか』とまともに反応してはいけない。深夜2時を過ぎて2対0とリードしていれば、床に就こうとする人も大勢いたはずです。サッカーは最後まで何が起こるかわからない。日本サッカーはW杯予選で、『ドーハの悲劇』など幾度となく厳しい場面を経験してきた。日本サッカーの生き字引とも言える松木さんが『ボールが悪いよね。久保のせいじゃない』『ベテランっぽいハンド』と謎の一言を吐くだけで、視聴者は眠気が覚めます。
“まだ油断してはいけない”ということを遠回しに、『ボールが悪いよね。久保のせいじゃない』『ベテランっぽいハンド』という言葉に置き換えることで松木さんは我々に訴えたのだと思います。よくある言葉で注意を促しても、人の意識は向かないですからね。かなりの高等技術だと思いますよ。絶叫するだけが松木安太郎ではないと分からせてくれた一戦でした」(シエ藤氏)
もはや『ベテランっぽいハンド』が存在するかどうかは、事の本質ではないのだろう。13日の試合でも、松木氏は新たな一面を見せることで視聴者を惹き付けてくれるかもしれない。