「うちでは面接はなく、まず研修から始まります。ターゲットである若者が事務所に入ってきた途端に、みんなでハイタッチし、ハグし合う。これが”本場(アメリカ)”のノリだと、とにかく朝からハイテンションです。そこで所長やボスの話を聞かせるんですが、夢やら成り上がりやらと若者に響きそうなエピソードを聞かせるのです。私は経理担当でしたが、もうすぐ独立予定の”エース”であり、ボスの次に最も成功に近い人物……という設定でしたね。ボスも借金まみれ、僕は手取り17万円で、騙された新入りが売ってくる小銭から、毎日数千円をちょろまかして小遣いにしていました」

 フルーツやガラクタ(雑貨)を売り歩くのが「本場アメリカのビジネス」とはどうにも繋がらないが、とにかくテンションで押し切ってしまうという。そして研修本番。佐野氏をはじめ、スタッフは”下がいないと食えない”為に、ありとあらゆる手段で「下に夢を見させる」のだ。

「僕の場合、事務所のある青山から渋谷駅まで全力ダッシュさせることが研修の第一歩。とにかく時間が惜しいと、このわずかな間もカネやチャンスにする、これがビジネスだと。移動中も、常に夢やビジネスの話をする。ナンバー2の俺でもこうやってきた…みたいな話をしながら、コーヒーの一杯でもおごる。コーヒー屋のテラスでMacBookを広げながらやっていましたね、冗談みたいですが」

 研修では、営業中の会社や店舗に飛び入りで”営業”に行かされる。もっとも、スーツも着こなせていないような怪しい風体の若者が、果物やガラクタをぶら下げてくるものだから、まともに取り合ってくれるところは皆無に近い。それでも、1日に数十件を回れば一件くらいは買ってくれるところもあるのだという。

「なんでもいいんです。一個500円のりんごだろうが、300円のボールペンでもいい。売れたタイミングが次のステップ。この成功を褒めちぎって、うちに就職するかどうか、あるいは”業務委託”になってもっと稼いでみるか?そう畳み掛けるんです。」

 この搾取ビジネスのポイントは、若者を”業務委託”にして奴隷化することだ。佐野氏の事務所では、例えば営業社員が品物を売れば2割のマージンバックが、業務委託の場合は5割のバックがもらえる、と説明していた。その差額2倍以上ということになれば、カネに困った若者が後者を選んでもおかしくはない。しかし、そもそも佐野氏の会社に”営業社員”を取る気はないのだ。

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