高倉健さんら昭和の名優たちとも共演


八名:悪役の方が、収入がいいんだな(笑い)。極端な話をすると、2時間出ずっぱりでも、1分で死んでも、ギャラは一緒。悪役で早く死んでいった方が、次の仕事ができる。当時はテレビよりも映画の時代だったから、1週間に4本の映画を作らなきゃいけなかった。今じゃ考えられないよね。何百人もいた俳優はフル回転だよ。だから、はよ死んで、次の仕事に行かなきゃ間に合わない。

 俳優になりたてのころは、「こんな金じゃ食っていけねえな」と思ったんだよ。プロ野球選手時代の50分の1しか収入がないからね。朝から晩まで働いても、1日400円くらいしかくれないんだから(編集部注:1950年後半の大学卒初任給は約9600円)。

――悪役として心がけていたことはありますか?

八名:ショーン・コネリーとかジャック・パランス、カーク・ダグラスとか、そういう人たちが演じる悪役で勉強したよ。ギャング映画の場合は、サングラスや葉巻に帽子、こういう象徴的なものは人よりいいものを買った。それでいて、主役より目立ってはいけない。そういうのは心得なきゃね、悪役は。

 任侠ものの場合は竹光でやることが多いけど、軽いから踊りみたいになってしまう。それを鶴田浩二さんも指摘していて、「そこに重みがない、殺意がない、怖さがない」ってよく言っていたよ。ジュラルミンの刀だと重みがあっていいんだよね。ジュラルミンだと、刀と刀を合わせた時に火花が散るように細工できて、迫力が増すのもいい。

――悪役らしい演技のコツを教えてください。

八名:葉巻の煙の中に殺意が出てこなきゃいけない。わざと顔を映さないの。監督に「煙だけ撮ってくれ」って、わざと後ろから映すの。顔が映ると、お客さんは顔を見てしまうからね。葉巻の煙があがる、なにかある、というのが画面に出てくると、怖い。俳優を30年40年とやっていると、監督から「八名君、ここは君に任せるから、 自由にやってみてよ」とか「ここは、こうやってもいいかな?」と話せることもあってね。

 殺し屋が酒を飲むんじゃなく牛乳を飲んでる、あるいは棒つきの飴をなめてる。異常だなあいつは、というのがちらっと出ると、面白いよね。

 目の動きにもコツがある。正面から相手を見たら、悪役は面白くない。若山富三郎さんに「お前の体があったら相当強烈なものが出るから、あとは目だよ。下から見たら、圧力がものすごくかかって、怖さが全然違う」って教わったんだ。あとは、照明で顔の半分、影にしてもらったりね。

――悪役は私生活でも役立つことはありますか?

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