スイスやオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、カナダなどで行われている「安楽死」。その実態に迫ったジャーナリスト・宮下洋一氏の著書『安楽死を遂げるまで』は、終末医療、そして生と死に思いをめぐらせる作品として話題になった。同作で講談社ノンフィクション大賞を受賞した宮下氏が、取材を通じて知り合ったスイスの自殺幇助団体代表に再び会いに行くと、同代表は驚くべき言葉を口にした。宮下氏がリポートする。
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本誌・SAPIOで16回にわたって連載した『安楽死を遂げるまで』(雑誌掲載時「私、死んでもいいですか」)が第40回講談社ノンフィクション賞を受賞した。安楽死という答えのないテーマに関して、不躾な質問を許してくれた各国の医師、患者、遺族に深く感謝したい。なかでもスイスの自殺幇助団体「ライフサークル」代表で、医師のエリカ・プライシック(60)には御世話になった。
彼女のもとで、数多の安楽死志願者の紹介を受け、時には死の「瞬間」にまで立ち会うことになった。
今年に入り、私は彼女に御礼の連絡を取ろうと思った。だが、メールの返事は滞った。春先には、スペインにいる私にライフサークルのニュースが伝わってきた。104歳のオーストラリア人科学者に対して、同団体が死を幇助したのだという。プライシックの沈黙と何か関係があるのだろうか。