車窓の眺めを楽しむのに最適なクロスシート(筆者撮影)

 クロスシートの主な短所は、乗降に時間がかかる点である。特に、窓側に着席した乗客は、通路側に着席した乗客により、スムーズな離着席を妨げられる(須田・松岡他は、この現象を「ブロッキング」と呼んでいる。前掲書p.145参照)。そのため、混雑時には、列車が駅に停車する時間が長くなりやすい。とりわけ、停車駅が多い普通列車は、各駅で停車時間が累積し、遅延を起こしやすくなる。

 一方、ロングシートの主な長所は、混雑への対応が容易な点である。ロングシートでは全ての座席が通路に面しており、乗客は他の着席客に影響されずに、スムーズな離着席を行える。特に停車駅が多い普通列車等では、ロングシートは混雑時の駅停車時間短縮や遅延防止に役立つ。また、ロングシート車両ではクロスシートよりも通路幅を広くできる。混雑時には多数の立客が通路にとどまるので、広い通路幅は立客1人当たりの面積を広くする。要するに、ロングシートは混雑時の立客の快適性を高められるのだ。

混雑への対応に優れたロングシート(筆者撮影)

 ロングシートの主な短所は、長時間の着席に適さない点である。前述のように、ロングシートに着席した場合には、乗客は車窓を眺めることができない。さらに、ロングシートの背もたれには、傾斜を与えることが極めて難しく、着席した乗客は、背筋をほぼ垂直に伸ばした姿勢を強いられる。これは、ロングシートでは、床に垂直な客室の壁を背もたれとして用いるからだ。さらに、ロングシートには、肘掛け・テーブル・ドリンクホルダー・コンセント等、長時間利用に便利な設備を設けることが構造上極めて難しい。

◆横須賀・総武快速線のロングシート化は妥当なのか

 なぜ、JR東日本は横須賀・総武快速線のE235系普通座席を全てロングシートとしたのか。平成29年度の横須賀線で最も高い混雑率は、武蔵小杉~西大井間の196%である(国土交通省「混雑率データ」)。通勤ラッシュ対策としては、E235系のロングシート化は妥当であるともいえる。

 一方で、鉄道ファンとしては、クロスシートの長所を軽視することはできない。

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