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高血圧、糖尿病、脳梗塞…痛風だけじゃない尿酸値のこわい話

高い尿酸値がいろいろな健康リスクにつながる

高い尿酸値がいろいろな健康リスクにつながる

「痛風の気があるから、医者からビールを控えるように言われてさ……」

 飲酒の機会が増える年末年始、居酒屋のテーブルでよく交わされるこの会話。ここで話題に上っているのは、健康診断や人間ドックで判定される「尿酸値」のことだ。基準値は3.6〜7.0mg/dL。基準値内でも、6.0を超えると医師から指導を受けるケースが多い。

 痛風発症を左右する尿酸代謝の研究を専門に行い、特に生活習慣病との合併に詳しい痛風治療の第一人者である鳥取大学大学院教授の久留一郎医師が解説する。

「血清尿酸値が基準値(7.0mg/dL)を超えると、高尿酸血症と診断します。これは、激しい痛みを伴うことでよく知られる『痛風関節炎』のリスクが高いということです」

尿酸値は健康リスクマーカー

 しかし実は、尿酸値が高いことの健康リスクは、痛風だけではないという。近年は、自治体が行う健診でも尿酸値を健康リスクマーカーとして検査項目に取り入れる場合が増えている。

「近年の研究により、高尿酸血症は痛風を引き起こすだけでなく、尿酸が全身の臓器の細胞内に取り込まれることで様々な臓器障害を引き起こす“全身病”であることがわかってきました。

 私の研究チームが“合併症のない高尿酸血症”の患者約6000人を5年間追跡調査した結果、尿酸値が高い人ほど、高血圧や脂質異常症、慢性腎炎、糖尿病、肥満などの発症率が高いことが判明しています。

 他の疫学調査でも、尿酸値が高い人はそうでない人に比べ1.48倍高血圧になりやすいことがわかっている。兵庫医科大学の研究では、糖尿病の発症リスクは1.56倍と出ています」(久留医師)

久留一郎・鳥取大学大学院教授

 さらに、高尿酸血症は脳梗塞を引き起こす不整脈「心房細動」のリスクを高めることも2012年の研究で判明しているという。特に高血圧と合併すれば、尿酸値が基準値内でも安全とは言えないそうだ。

尿酸値を下げる食事とは

 どうすれば、高尿酸血症を予防できるのか。高尿酸血症・痛風を含む内分泌代謝疾患の専門医、大阪市立大学大学院講師の藏城雅文医師が解説する。

「そもそも尿酸は体内での合成と食事からの摂取で毎日約700mg産生され、産生された尿酸と同じ量の700mgが尿や便から排泄されることで、血清尿酸値は一定に保たれています。

 この産生と排泄のバランスが崩れて尿酸値が高くなるのが高尿酸血症ですが、その約60%は『排泄低下型』と言い、腎臓からの尿酸排泄量が低下する病態です。そこで問題となるのが『肥満』。1997年の研究により、内臓脂肪の面積が大きいほど血清尿酸値が高く、腎臓からの尿酸排泄量が低いことがわかっています。その後の研究で、肥満は腎臓から尿酸の『再吸収』を促進させることで、尿酸排泄量を低下させることもわかっています。つまり、高尿酸血症の予防や治療には、肥満の解消が重要なのです」

 では、尿酸値を下げるにはどんな食生活が求められるのか。一般に、成分として「プリン体」を含む食品の摂取が尿酸値を高め、痛風発症のリスクになることはよく知られている。藏城医師が続ける。

「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版(クリニカルクエスチョン7)において、食事指導の有効性と尿酸値・痛風に関する文献を網羅的に調べたところ、いくつか食事についてのエビデンスが確かめられました。

 まず、尿酸値を高める食品としてはアルコールや糖質があります。その結果としての痛風発症を増加させる食品は、アルコール、肉類、魚介類、糖質です。一方、痛風を抑制する効果があると言えるのは乳製品でした」

藏城雅文・大阪市立大学大学院講師

 海外での研究結果によると、肉類・魚介類の摂取が多いと痛風発症の相対危険度は1.5倍、アルコールの中でもビールは同1.5倍に上ると指摘されている。

「アルコールを代謝するときにATPというエネルギー供給源を用いるのですが、ATPが分解されると、最終的に尿酸となります。尿酸はそれ以上、体内で分解されないため、アルコールの摂取量が多いほど尿酸値を上昇させることになり痛風発症リスクが高まるのです」(藏城医師)

 中でもビールは、ワインやウイスキー類に比べプリン体を多く含むため、影響が大きいという。尿酸値が高めの人にビールを控えるよう医師が指導するのはそのためだ。

「アルコール同様、砂糖入りソフトドリンクも尿酸値を上昇させます。フルクトース(果糖)が体内で代謝される際にも、ATPが用いられるので、尿酸が産生されることになります。食品の他には、激しい運動が尿酸値を上昇させることもわかっています」(藏城医師)

 反対に、高尿酸血症・痛風のリスクを下げるのが牛乳やヨーグルトなどの乳製品だ。

「牛乳が尿酸値を低下させるのは、プリン体を含んでいないことに加え、牛乳に含まれるタンパク質が作用して尿酸の排出を促進させる(尿酸排泄率を高める)からだと想定できます。

 一方、ヨーグルトについては株式会社明治との共同研究で興味深い結果が出ました。20歳以上の男性14名を2グループに分け、『Lactobacillus gasseri PA-3(以下、乳酸菌PA-3株)』を含むヨーグルトと含まないヨーグルトをそれぞれ食べてもらい、両者に尿酸の元になるプリン体を経口摂取してもらう負荷試験(プラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験)を行い尿酸値を測定した結果、血清尿酸値の変化量(上昇量)で比べると、乳酸菌PA-3株を含むヨーグルトを摂取したグループのほうが、乳酸菌PA-3株を含まないヨーグルトを摂取したグループに比べて食後の尿酸値の上昇が抑制されていたのです。乳酸菌PA-3株が尿酸値の上昇を有意に抑えることが確かめられました。

 併せて尿中の尿酸排泄量を見たところ、両者に差は認められませんでした。尿からの尿酸排出量が変わらないということは、乳酸菌PA-3株がヒトの腸内でプリン体を取り込み、ヒトが吸収するのを抑制しているのではないかと想定されます」(同前)

 試験の結果、乳酸菌PA-3株は1日1回程度、食事前に摂取することで効果が見込めそうだと藏城医師はいう。

乳酸菌PA-3株が食後の尿酸値上昇を抑える(藏城雅文医師提供)

若年世代にも「高尿酸値」のリスク

 尿酸値上昇のリスクについては、ビールなどの飲酒習慣のある成人向けの話だと思いがちだが、実はそれだけではない。兵庫県尼崎市職員として保健指導に長年取り組み、同市の医療費の伸びを7年で13億円抑制した実績を持つ大阪大学大学院招聘准教授の野口緑氏は、若年世代の健康リスクをこう指摘する。

野口緑・大阪大学大学院招聘准教授

「若年世代は、成人後に様々な生活習慣病を引き起こす『肥満』に特に注意が必要です。尼崎市でも特に男性で高校卒業後に太り始める人が多いことから、高校生までに望ましい生活習慣をいかに身につけさせるかが課題になっています。

 尼崎市では2010年から11歳(小5)と14歳(中2)を対象に含む『みんなでヘルスアップ健診事業』をスタートさせました。その結果、尿酸値が基準値を超えていたケースは11歳全体の11%に上りました。14歳ではさらに多い17%、約5人に1人に高尿酸血症の疑いがあったのです。

 彼らの食生活の内容をみると、スポーツ飲料やジュース類の摂取が多く、果糖の過剰摂取が尿酸値を上昇させているのではないかと推測できます」

 痛風発作を起こす尿酸値を気にしなければならないのは、ビールが好きなお父さんばかりではなさそうだ。科学的に根拠が確かめられた「尿酸値の上昇を抑える」食品、つまり牛乳やヨーグルトの摂取を老若男女問わず心がけたい。

*本文中の識者の発言は、11月29日に開催された株式会社 明治のマスコミセミナー「疾病リスクマーカーとして注目すべき尿酸値に関する新知見」の講演内容を再構成したものです。

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