逆に反対している人は、50代以上の英語教員に多い。「英語が話せないのがバレる」「今までやってきた授業を変えたくない」──本音はそこでしょう。高校の校長も、あと5年で定年なのに面倒なことはやりたくないという人が多いのではないでしょうか。若手の教員も陰では「ベテランが問題だ」といっていました。
記述式問題の導入のために、文科省は全高長に、「共通テストの実施時期を2週間ほど早められないか」と打診したこともあります。12月の25日、26日あたりに実施できれば、採点のための期間を十分取れるので、プロの採点者だけで採点できる。しかし、全高長はこれも蹴ってきました。それで採点にバイトを雇わざるを得なくなったわけですが、その結果、「採点にブレが出る」「バイトが採点するのか」という批判につながったのです。
入試改革が発表されて、実際に高校の現場は本当に変わりつつありました。やはり入試がボトルネックだったんだなと。あとは入試がちゃんとうまくいけばいいなと思っていたら、実施直前になって、今回の混乱が起きたのです。
◆「現状からビタ一文変えさせない」
──文科省の対応に問題はなかったのか。批判に対してもほとんど反論をしていない。
鈴木氏:文科省の対応にも、問題は、おおありです。段取りが悪く、この1年の対応が鈍かったのは事実で、もっと早く調整の労を取るべきだったと思います。全高長との間で、「働き方改革も大事ですが、個々の教員の自主的な任意な協力は止めないでください」という説得と調整ができていなかった。大学との調整ももっと早く進め、何段階かにわけてもいいから、4技能を入試で使う大学名を、早め、早めに高校に公表すべきでした。この点は、全高長が困るのもよく理解できます。
2018年には文科省の局長二人が収賄で逮捕される事件が起きたり、全高長の窓口を務めるべき局長の病欠が続いていたり、いろんなことが重なったことも影響したと思います。しっかりと何度でも説明すべきでした。ただ、反論すればするほど逆に叩かれるだけなので、貝になるしかなかったのも事実。
──英語の民間試験導入は5年先送りになり、記述式導入も延期が発表された。改革の先行きは不透明だ。
鈴木氏:入試改革が頓挫してしまったので、ますます、これまでの教育を墨守しつづける公立高校にしか通えない地方の生徒、経済的に恵まれない家庭の生徒と、様々な教育に触れられる都会の裕福な生徒との地域格差、経済格差が広がるでしょう。
慶應SFC(湘南藤沢キャンパス)では、すでに一般入試で入学する学生は6割、AO入試(*注)と内部進学が4割になっています。慶應の「すずかんゼミ」には学生が60人いますが、先日聞いてみたら、高校・大学で留学経験のある学生が8割にのぼりました。AOで慶應SFCに入った学生は、入学段階で、ほとんどが英検で準一級レベル以上の英語力があるので、外国人の研究者を呼んで英語で授業をしてもらっても何の問題もない。センター入試のマニアックでトリッキーな試験の対策をせずにすみ、高校3年間の間に留学したり、サマースクールに通ったりして生きた英語を学んでいる。それに触発されて、一般入試生も入学後、積極的に留学などしている。
【*注:AO入試/アドミッションズ・オフィス入試。慶應大では「一定の資格基準を満たしていれば自分の意思で自由に出願できる推薦者不要の公募制入試」と定めている】