戦時中は各町内で「隣組」が組織されて、日常生活における協力体制を作るとともに、相互監視の機能を果たしました。政治体制に協力的ではない人を吊し上げたり、「危険思想」を持っているとされる人を警察にチクったりしたとか。国防婦人会が「正義」を振りかざして、隣人のアラ探しに精を出していたこともよく知られています。

「この非常時に!」と隣人に罵声を浴びせかけた人たちのほとんどは、国の方針に従って嫌々やっていたわけではありません。本人は使命感を抱きつつ「よかれと思って」やっていただろうし、ある種の気持ちよさもあったでしょう。いや、責めたいわけではなく、人間はそういう性質がある生き物だということ。

 マスクをしていない人が露骨に白い眼を向けられたり、検討に検討を重ねてイベントの開催を決めたところに抗議が殺到したり、予防効果云々より批判が怖くて「とにかく自粛」という動きが広まってたり……。そんな今の状況は「なるほど、戦時中もこういう雰囲気だったんだろうな」と、貴重な感覚を覚えさせてくれます。

 春の選抜高校野球大会も中止が決定しました。一世一代の晴れ舞台に立つチャンスが消滅した高校球児たちのショックやいかばかりか。しかし、指導者も含めて、伝わってくるのは前向きでケナゲなコメントばかりです。もし何かの拍子にポロッと漏れたネガティブな本音が報じられたら、たちまち世間様の総攻撃を受けるでしょう。

 戦時中、出征していく若者は胸を張って「お国のために立派に散ってきます」と言ったそうです。送り出す母親も「立派に死んでこい」と言って、戦死したら「こんな名誉なことはない」と喜ぶのが“当たり前”でした。「本心」とは何なのかは難しい問題ですが、似た構図に見えるのは気のせいでしょうか。

「小人閑居して不善をなす」ということわざがあります。どうしようもないヤツは、ヒマになるとロクなことをしないという意味。新型コロナの影響で仕事の予定が飛んだり飲む機会が減ったりすると、こういう余計なことを考えてしまうようです。

 春なのに重々しい日々が続きますが、もしよかったら「今、自分は貴重な疑似体験をしている」と思うことで、次々に起きる不愉快な出来事を呆れた目で見たり、予想外の展開のショックをやわらげたりしてみてください。いや、この疑似体験が何の役に立つのかはよくわかりませんけど。

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