「アレが置いてある店には絶対に入らない。夜の街でもアレが置かれていたら帰る。並びで座ったらアレを間に置くのは無理だしな。対面でも、アクリル板の上や横から手を出し合って乾杯、話すのはアクリル板越し。それで今までと同じ料金なんてありえない」
彼の行きつけの店には、来る客はそれなりに覚悟しているはずという店主のモットーから、アクリル板は設置されていないという。
「ボーイはフェイスガードをしているけど、女の子はナシ。前に連れてったヤツが極度に神経質なヤツで、女の子は側に寄せつけない、酒は女の子に作らせず自分で作る。つまみに出たピーナツの皮を剥いてくれたのはいいが、除菌用ウエットティッシュの上に置いて渡してくる。『うんざりだ。お前、嫌がらせに来たのか? 帰れ!』とその場で帰した」
「女の子の中にはアルコール消毒をしすぎて、ライターでタバコに火をつける時に一瞬、ボッと指に火がついた子もいた。なんでもやり過ぎは害になる」
感染予防の対策は普通にするが、見えない敵とは戦わない。どこから来るかわからない敵を相手に、飲み食いする時、目の前に置かれた小さなアクリル板に何の意味があるのか?と暴力団幹部は問う。
話を聞きながらふと思った。店先に暴力団排除宣言や暴力団員立入禁止のステッカーを貼るより、「アクリル板設置店」という張り紙をデカデカと掲げた方が、もしかすると効果的かもしれない。