現地時間9月29日に、大統領選挙の初めてのテレビ討論会が開かれた。互いにじっくり準備して臨んだ天王山の戦いだけに、注目度も高かった。勝敗はいかに? ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏がジャッジした。
* * *
大統領選挙のテレビ討論会といえば、定番の図式は「挑戦者と受けて立つ現役大統領」である。しかし「トランプvsバイデン」の戦いはそうは見えない。バイデン氏は、オバマ政権で8年間、副大統領を務め、すでに77歳と高齢。フレッシュな挑戦者というイメージはない。それがあれば、もう少しトランプ大統領に鋭い攻撃を仕掛けられたかもしれない。
トランプ氏は、「あなたはワシントンで47年間政治家をやってきた。私は47カ月しかやっていない。あなたは47年間もあって何をやったのか?」と斬り込んだ。バイデン氏はそれには答えず、トランプ氏を「嘘つき」とか「この人は自分の言っていることがわかっていない」などと馬鹿にする。挙げ句の果てに「黙れ!」と語気を強める始末だった。
筆者が気になったのは、バイデン氏がトランプ氏を何度も「This Man」と呼んだことだ。いくら戦いの相手であっても、いやしくも一国の大統領を「この男」呼ばわりすることは、過去のテレビ討論会でも記憶がない。
いずれにせよ、最初のテレビ討論会は、悪口、非難の応酬であって、それ以外の何物でもなかった。中身も実りもない討論は、今のアメリカを象徴しているようだった。バイデン氏は他にも、トランプ氏を「アメリカ史上最悪の大統領」とか「プーチンの子犬」などと呼んだ。トランプ氏はバイデン氏の息子を「不名誉の除隊をさせられた」と中傷し、バイデン氏本人のことは「社会主義者の言いなり」などと攻撃した。
もちろんコロナ対策も議題になった。バイデン氏はトランプ氏に対し、「2月の時点で恐ろしい病気だと承知していながら、パニックに陥ったのか、それとも株価を見ていて何もしなかった」と批判し、「すぐにもっと賢くならなければ、もっと大勢が死ぬ」と詰め寄った。するとトランプ氏は怒りを隠さず、「そっちはクラスでもビリのほうで卒業したくせに、『賢い』なんて言葉を私に使うな。絶対に使うな」と、政策とは関係ない反論を繰り出す。
討論会直前にニューヨーク・タイムズが報じたトランプ氏の納税額の問題については、司会者がトランプ氏に「2016年と2017年に払った連邦所得税は750ドルだというのは本当ですか」と尋ねた。トランプ氏は「何百万ドルも払った」と答えた。そのうえで、自分は不動産開発業者だったのだから制度に則って節税するのは当然だ、そういう税制を作ったのはバイデン氏たちだと主張した。