2005年、薄型テレビの出荷台数がブラウン管式を上回る。画面サイズが世界最大のシャープの65型液晶テレビ(上)、カラーテレビで人気が高かった、ソニーのトリニトロン方式ブラウン管を採用した第1号機「KV-1310」。[ソニー提供](時事通信フォト)

2005年、薄型テレビの出荷台数がブラウン管式を上回る。画面サイズが世界最大のシャープの65型液晶テレビ(上)、カラーテレビで人気が高かった、ソニーのトリニトロン方式ブラウン管を採用した第1号機「KV-1310」。[ソニー提供](時事通信フォト)

 ボトムズのLD-BOX、最盛期には13万円から16万円くらいの値がついていた。1990年代、アニメのレーザーディスクは儲かった。しかしその後、儲けた会社の中には円盤(のちのDVDなど)が売れず、苦し紛れにファンから本来の姿とは異なる微妙な出来上がりで「泥人形」と呼ばれ、元の姿に似せようとしているのか疑うレベルという意味で「邪神」とも呼ばれるようなフィギュアを製作販売したあげく2010年に潰れた会社など、多くは淘汰された。

「葉月、何の仕事してたんだろう」

 そうか、岸田くんには話してなかった。葉月くんと最後に会ったのは7年前。当時、筆者はソーシャルゲームの製作や電子コミックの編集で羽振りがよかった。会社を辞めることができたのもそのおかげ、どこにも名前なんか出ないが儲かる仕事というのが業界には存在する。そんなある日、葉月くんが10年ぶりに電話をくれた。仕事を紹介してくれとのことで新宿で再会した。しかし彼はアドビのソフトどころかエクセルもできない。ワープロ打ち出しの紙入稿で時が止まってしまっていた。手持ちの作家も古く、いまどうしているかわからないような1990年代で消えた漫画家ばかりであった。ソシャゲもやったことがないどころかガラケーであった。「トラフィック」(原稿運び)でもいいと言われたが、もうソシャゲのイラストも電子コミックもごく一部の大御所を除けばデジタルである。この業界は残酷だ。少しでも乗り遅れると居場所がなくなる。結局、昔話と近況報告だけで別れた。

「その時は深夜の牛丼屋でバイトしてるって言ってた。牛丼屋かは知らないけど、いまもそんな感じだったんじゃないかな、家賃は払えてたわけで」

 筆者の言葉に、さすがの岸田くんも黙ってしまった。あの時、筆者に何ができたのだろうか ―― 葉月くんとは仕事の話はお終いにしてオタク話に終始した。葉月くんも落ち込む様子なく、パソコンゲームはフロッピーをガシガシ入れて読み込む音も楽しむものだ、パソコン通信のダイヤルアップ接続音が好き、レーザーディスクの巨大なターンテーブルに極彩色の大きな円盤を乗せるカタルシス、そして先のハイビジョンブラウン管テレビの話になり、「液晶はだめだね、やっぱりブラウン管が一番」とファミコンにはブラウン管だと力説していた。楽しかったが、少し怖くなった。あの怖さはなんだろう。1990年代、20世紀のままの葉月くんがそこにいた。

「でも牛丼屋、気が楽って言ってたけどな、深夜のワンオペだから一人でやってられるって」

 なんとなくいたたまれずに発した筆者の言葉、岸田くんは「葉月らしいや」とだけ答えた。

プレミア価格がつくレーザーディスクは腐食していた

 膨大なオタク知識が葉月くんの武器だったが、インターネット、とくに検索エンジンの台頭により、彼のような物知りというだけでは業界に残れなくなっていた。1990年代まではどの編集部や制作会社にも、博識なオタクが一人はいて、古いアニメのキャラクターの名前や作品の放送年、ゲームの発売日から各パソコンゲームのディスク枚数まで即答だった。懐かしアニメ系企画の校正で1980年代テレビアニメのキャラクター名表記について「サイコーユ鬼が正しい!」と曲げなかった彼は合っていたし、声優「本多知恵子」(本田、千恵子、智恵子)など校正泣かせの表記ブレにも厳しかった。いまは検索すればポンと出る。そのレベルの知識に限れば、紙の資料山積み、その場の人間の知識頼みの時代はとうに終わった。「インターネットやばいね、俺の居場所ないね」と再会したとき葉月くんもこぼしていた。

「もったいないな、『狂鬼人間』だめかも、変なノイズがのってる」

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