ライフ

ノーベル賞候補となった研究者に訊いた“睡眠の謎”「自称ショートスリーパーの99%以上はただの寝不足です」

睡眠研究の第一人者、柳沢正史教授

睡眠研究の第一人者、柳沢正史教授

 睡眠の研究で今、「最もノーベル賞に近い」と評される学者が筑波大学にいる。睡眠研究の第一人者、柳沢正史教授である。学生時代から不眠に悩まされてきたという59歳のジャーナリスト・横田増生氏が、その快眠メソッドを学びに門を叩いた。【前後編の前編。後編を読む

 * * *

睡眠を「見える化」する

 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の機構長である睡眠研究者の柳沢正史教授に、高校からがんこな不眠に悩まされ続けてきた私が、睡眠の謎や、快眠のノウハウなどについて訊いた。

 私は事前に、教授が立ち上げたベンチャー企業「S,UIMIN」で2日にかけて脳波を計った。1日目は、8時間眠ったが、中途覚醒が2時間近くあった、2日目は9時間強の睡眠で、中途覚醒が1時間ほどあった。まずはその結果を見てもらった。

「この脳波はあまりよくありませんね。点のような中途覚醒がたくさんあるし、まどろみレベルの睡眠が多い代わりに、一番深い睡眠がほとんど出ていません。これではぐっすり寝た気がしないんじゃないですか。

 睡眠はこれまで、各自の主観で語られてきました。人が眠れているのか、いないのかは、個々の感じ方でしかなかったわけです。しかし、睡眠は本来、脳波を取って初めて分かるものです。ぐっすり眠っているように思えても、実は眠れていなかったりする。

 その逆もあり、3時間しか眠れないと訴えている不眠症患者さんの脳波を取ったら、実は8時間寝ていると分かることがあります。こうしたギャップを『睡眠誤認』と言うのですが、脳波を取るとよく眠れていますよ、と患者さんに告げると、途端に不眠が解消する場合もあります。1人でも多くの人が脳波を取ることで、睡眠を『見える化』したい、と私は考えているのです」

 柳沢教授がノーベル賞の候補に挙がっているのは、1990年代後半に睡眠制御に関わる神経伝達物質である「オレキシン」を発見し、それが新しい睡眠薬の創薬につながったからだ。

「オレキシンとは脳内にある覚醒物質の親玉であり、これが欠落すると覚醒を維持できなくなり、『ナルコレプシー』という強烈な眠気をもたらす病気になります。私が発見したオレキシンを使って、この数年で、覚醒中枢における『オレキシン』の受容体をブロックすることで自然な眠りを引き起こす新しい睡眠薬ができました。現在、『デエビゴ』(エーザイ社)と『ベルソムラ』(メルク社)として販売されています。

 1960年代に作られたベンゾジアゼピン系の睡眠薬とは違って、依存性や耐性、反跳(はんちょう)不眠といったリバウンドはありません。ふらつきや転倒もきたしにくい。健忘や認知機能の低下もなく、アルコールとの相互作用も少ない。現在では、ベンゾ系の薬にとって代わり、不眠治療の臨床の現場における第一選択肢の薬となっています。

 脳内の覚醒物質をブロックして眠りにつくようにする薬なので、脳波も自然です。ベンゾ系の薬を服用した場合、睡眠薬特有の脳波が出るのですが、それもない。脳波だけを見ると、普通の眠りと区別がつきません。非常にいい睡眠薬です。まぁ、こうやって宣伝しても、発見と創薬は別ですので、私には1円も入ってくるわけではありませんが(笑)」

関連記事

トピックス

中国でライブをおこなった歌手・BENI(Instagramより)
《歌手・BENI(39)の中国公演が無事に開催されたワケ》浜崎あゆみ、大槻マキ…中国側の“日本のエンタメ弾圧”相次ぐなかでなぜ「地域によって違いがある」
NEWSポストセブン
渡邊渚アナのエッセイ連載『ひたむきに咲く』
「世界から『日本は男性の性欲に甘い国』と言われている」 渡邊渚さんが「日本で多発する性的搾取」について思うこと
NEWSポストセブン
 チャリティー上映会に天皇皇后両陛下の長女・愛子さまが出席された(2025年11月27日、撮影/JMPA)
《板垣李光人と同級生トークも》愛子さま、アニメ映画『ペリリュー』上映会に グレーのセットアップでメンズライクコーデで魅せた
NEWSポストセブン
リ・グァンホ容疑者
《拷問動画で主犯格逮捕》“闇バイト”をした韓国の大学生が拷問でショック死「電気ショックや殴打」「全身がアザだらけで真っ黒に」…リ・グァンホ容疑者の“壮絶犯罪手口”
NEWSポストセブン
“ミヤコレ”の愛称で親しまれる都プロにスキャンダル報道(gettyimages)
《顔を伏せて恥ずかしそうに…》“コーチの股間タッチ”報道で謝罪の都玲華(21)、「サバい〜」SNSに投稿していた親密ショット…「両親を悲しませることはできない」原点に立ち返る“親子二人三脚の日々”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
「山健組組長がヒットマンに」「ケーキ片手に発砲」「ラーメン店店主銃撃」公判がまったく進まない“重大事件の現在”《山口組分裂抗争終結後に残された謎》
NEWSポストセブン
ガーリーなファッションに注目が集まっている秋篠宮妃の紀子さま(時事通信フォト)
《ただの女性アナファッションではない》紀子さま「アラ還でもハート柄」の“技あり”ガーリースーツの着こなし、若き日は“ナマズの婚約指輪”のオーダーしたオシャレ上級者
NEWSポストセブン
財務省の「隠された不祥事リスト」を入手(時事通信フォト)
《スクープ公開》財務省「隠された不祥事リスト」入手 過去1年の間にも警察から遺失物を詐取しようとした大阪税関職員、神戸税関の職員はアワビを“密漁”、500万円貸付け受け「利益供与」で処分
週刊ポスト
世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン