プラズマ・液晶による薄型パネルを搭載したソニーのテレビ。左から「プラズマベガ KDE-P61X2N」、「液晶ベガ KDL-L32HX2」、「FDトリニトロン KD-36HR500」。2003年発売[ソニー提供](時事通信フォト)

プラズマ・液晶による薄型パネルを搭載したソニーのテレビ。左から「プラズマベガ KDE-P61X2N」、「液晶ベガ KDL-L32HX2」、「FDトリニトロン KD-36HR500」。2003年発売[ソニー提供](時事通信フォト)

 岸田くんの言葉にうなずく。葉月くんはアニメを観ている最中に(親御さんの証言)、急性心筋梗塞で死んだ。自分で救急車を呼んだが救急隊が到着したときには冷たくなっていた。おそらく突然死に近い状態だったのだろう。部屋の中で何日も何週間も遺体のままは避けられたが、あっという間だった。筆者も4年前に急性心筋梗塞で死にかけた。助かるかどうかは年齢関係なく時間と運が左右する。原因となる不調を起こす冠動脈が何番目かにもよる。筆者はAHA分類で3番の閉塞だったが、葉月くんは5番と聞いた。5番の左冠動脈主幹部は心筋血流全体の 80%が通る重大箇所でとくに危険だ。不健康な人や高齢者ばかりではない。サッカーの松田直樹さん(享年34)やバレーボールの谷村孝さん(享年35)など健康で若くとも、心筋梗塞はある日突然やってきて、あっという間に命を奪う。

壁一面にアニメや特撮のレーザーディスクの棚

「これもいらないなあ、眺めてるとこう、壮観だけどね」

 葉月くんのアパートは2Kだが振り分けではなくつながって奥に部屋があるタイプだ。奥の部屋は壁一面がレーザーディスク(LD)の棚。ほとんどがアニメと特撮で、見慣れた懐かしいロゴがずらり並んでいる。20年以上前、葉月くんの自慢のコレクションだった。

「この『うる星やつら』とか33万円だもんな、『銀河英雄伝説』も全部揃えたらとんでもない金額だ」

 いまだに当時のダンボール箱に入れられたままの『うる星やつら』LD-BOX、そして荘厳で百科事典のような装いの『銀河英雄伝説』LD-BOX全5巻(外伝含む)。『うる星やつら』のほうは高校時代にバイトして買ったと言っていたが羨ましかった。『銀河英雄伝説』のボックスはもう箱の一部がひしゃげている。レーザーディスクの大円盤は結構な重量なので、さすがに20年の年月は厳しかったか。

「ボトムズのボックスなんて中古で10万円以上してたもんな、アキバのゼットで一番いいとこにあった」

 1990年代の秋葉原は一時期、アニメの中古レーザーディスクの取引の場でもあった。リバティー、ゼット、ディスクユニオン ―― 中古ショップは盛況で、岸田くんの言う「ボトムズ」とは1983年に放送された『装甲騎兵ボトムズ』というテレビアニメをが全話LD-BOX化したものである。定価からして高価だったが、よく売れたと聞く。

「でもいまやヤフオクで二束三文だもんな、若い子はレーザーディスク知らんし」

 1980年代後半から1990年代半ばにかけて普及していたレーザーディスクは、次世代の映像記録媒体として期待されていた直径30センチの光ディスク。録画時間は最大2時間で、映画ソフトが劇場公開時の画角で見られる、それまで一般向けに発売されたVHSビデオなどに比べて微細な部分まで記録・再生できるとマニアやコレクターから人気が高かった。ドラマやアニメ作品を複数枚のディスクに収録し、ボックスのセットで販売する商品が多数、登場するようになったのもレーザーディスクからだ。直径12センチのDVDが普及するのは、それよりあとになる。

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