地方医学部に存在する「東大卒業生派閥」

 Y氏が医学部への入学を果たした後、キャリアの積み上げに失敗した東大の同級生たちが、「あいつが合格するなら自分も入れるだろう」と考えて、続々と彼の入学した大学の医学部に進学してきたそうだ。

「大学の中に、期せずして同窓会というか、東大卒業生派閥のようなものができました。お世話になっていた研究室の教授からは『うちは君たちが人生を再出発するためにやたらと便利に使うような場所じゃないんだぞ』と言われていたほどです」

 その教授が言うように、実際、地方大学の医学部は、キャリアの積み上げに失敗した東大卒業生の「人生再生工場」なのだろう。今や新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった日本的雇用慣行は崩れつつあり、これまでのように難関大学を卒業してそれなりの職場に入り込めば人生安泰という時代ではなくなった。転職のハードルは下がり、その機会は増えている。人生の再生を望んで医学部に再入学する東大卒業生は今後ますます増えていくはずだ。

 ちなみに、ここまでの話は3年ほど前、まだ医大生だった彼に行ったインタビューを元にして書いたものだ。医学部での6年間の学びを終え、Y氏は今、大学病院で研修医をしている。筆者はこの記事を書く直前に電話で彼に近況を訊いた。社会が未曽有のコロナ禍にある中、その最前線となっている病院で研修医として働く日々について、「肉体的にも精神的にもハードだが、とても充実している」とY氏は語り、次のようにも話してくれた。

「小児病棟を担当していたときに子どもたちが亡くなっていくのを見て、何とかしてあげたいと心の底から思いました。将来は小児科医になるつもりです」

 東大からの就職に失敗し、医師になる動機を「人並み以上に食べていくため」と語っていた彼であったが、地方の医学部での教育を通じて一人前の医師になりつつあることを筆者は嬉しく思う。

【池田渓】
1982年兵庫県生まれ。東京大学農学部卒、同大学院農学生命科学研究科修士課程修了、博士課程中退。フリーランスの書籍ライター。共同事務所「スタジオ大四畳半」在籍。近著に『東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話』(飛鳥新社)がある。

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