筆者は以前取材した、特殊詐欺の指示役として逮捕された経験を持つ人々に改めて連絡を取りその原因を探ったが、特殊詐欺事件の受け子役を経験し、後に指示役へと「昇格」した後に逮捕された過去を持つ、九州地方在住の西岡輝氏(仮名・30代)の、法廷では語らなかった偽らざる「内情」に行き着いた。
「今では実行役も指示役もSNS等で集められた素人がやるようになりましたが、昔は違いました。逮捕されるのは末端である(金銭の)受け子、(電話の)かけ子だけで、指示役にまで司直の手が伸びることはなかった。要するに、指示役以上はよほどのことがない限り、身分を隠したままで儲かったんです。末端はいくらでも換えがきくから、やればやるほど儲かる仕組み」(西岡氏)
西岡氏が現役だったのは、今から7年以上も前。その後、指示役やその上の立場の暴力団関係者が逮捕されるようになると、様子も変わった。
「かつての指示役も逮捕を恐れて、指示役を下に投げるようになりました。新たな指示役は受け子やかけ子の経験がある連中で、逮捕される危険性が減るから喜びます。これで安全に儲けられると」(西岡氏)
特に末端の人間たちが信じていたのは「上に行けば行くほど捕まりにくい」ということだった。捕まりにくければ、その分、より多くの儲けにありつける。さらに、万一逮捕され、懲役刑を食らったところで、物理的に人を傷つけることがなければ、課せられる刑罰もそれほど重い物ではなくなり、刑務所で数年過ごすだけ。プールしておいた金が数百万円、数千万円あれば、数年の懲役程度ならお釣りがくる。そうした「先人」達を見ていたものだから、それが「効率の良い儲け方」なのだという思考が、末端の人間達にも広まったという。
「当時は、本当に数百万、数千万を稼いでパクられて、2~3年で出てくるなんてことが本当にあったんですね。2年刑務所に入っても、その前に1000万円を荒稼ぎしていたら、年収500万ですよ。学歴もコネもない若い奴らが年収500万の仕事なんてできませんからね。私自身、末端要員をリクルートする際に『効率よく生きた方が良い』と吹聴していましたから」(西岡氏)
儲けたお金をあらかじめ隠しておき、捜査でも見つからなければ、ほとぼりが冷めた頃には自由にできるカネに化ける。そんな犯罪者に都合のよいことにならないよう、法律も取締りも工夫を重ねられてきているが、かゆいところには手が届かないのが実情だ。すり抜けられるなら儲けもの、その得を利用しない手はないと考えるのが経済詐欺師の習性だったが、特殊詐欺に関わる人々にも、そうした感覚が広まっていると言えるだろう。
このような感覚を持った詐欺師達は、逮捕され娑婆に出てきても、心を入れ替えて、正々堂々「表」の仕事で頑張ろうとは決して思わない。次は逮捕されないようにと、より巧妙な犯行を脳内に描き、一攫千金を夢見るのである。