大阪府警が押収した特殊詐欺マニュアル(大阪府警提供、イメージ、時事通信フォト)

大阪府警が押収した特殊詐欺マニュアル(大阪府警提供、イメージ、時事通信フォト)

「恋愛を匂わせたら反応はどうだったとか、住んでいる家が貧乏くさくて金はなさそうだとか、マルチのメンバーがターゲットのことをこき下ろしていました。ターゲットとして名前が出ていた人物に連絡をしたのですが、ショックのあまり呆然。もちろん、マルチを仕掛けていた人物の素性もバレて、界隈でも大騒動になっているようです」(大手紙経済担当記者)

 この「思わぬ情報」は多岐にわたり、マルチ商法グループの他には、「新興宗教の勧誘」マニュアルのようなものまであったことを筆者は確認をしている。今回の情報漏洩トラブルは普通の利用者にとっては災難だっただろうが、被害を未然に防ぐためになったかも、と思わずにはいられない。一方で、「人生が終わる」レベルの被害がおよびつつある人もいると話すのは、関東地方の風俗店経営者の男性(40代)。

「どこかの人材業者らしきアカウントが、コロナワクチンの治験に参加を希望している人の名前、住所、電話番号や免許証の写真をアップしていました。業者は手広く『女性のスカウト』もやっていたようで、水商売で働きたいと希望している未成年の個人情報、風俗店で働いている成人女性の写真や個人情報、借金の有無などの記載もあり、自分の名前を入れてヒットしないかと業界で働く女性はびくびくしていますよ」(性風俗店経営者の男性)

 実は、今回の騒動のきっかけとなった「新たに使える無料の便利なツール」は、前述のマルチ商法グループや風俗店などに人を紹介する業者など、働く人の流動性は高いが短期で高収入を狙う人が集まる業界で、かなり積極的に導入されている。マルチのターゲット探しや女性のスカウト行為にSNSを利用するのも、遠隔地居住者との会合や面接にビデオ会議用アプリを使うのも、一般企業が導入するよりも早い段階でその便利さ、有利さを見抜き、業務に利用しようと試みる傾向が目立っていた。導入までの決断の速さは良いのだが、速すぎるが故に当然「使い方のアラも目立つ」(性風俗店経営者の男性)。

 携帯が一般に普及したときも、スマホが発売された直後も、こうしたソフトを積極的に利用してきたと話す男性。大量のタスク(やるべきこと)を一元的に管理でき、紙書類やパソコンのメールソフト、表計算ソフトを使って個別に業務を裁き、最後に責任者が進捗状況をまとめあげるといったプロセスが、どんどん簡略化されていく。そのようなことは、どの職場でも同じだろうと思うかもしれないが、毎日、決まった時間に同じメンバーが出勤してくるわけではない、バラバラに仕事をしている人たちの情報を把握してまとめてゆかねばならず、このまとめる手腕こそが彼らの仕事がうまくいくかどうかを左右するという性質を考えると、ツール導入が早いのも当然だろう。

 彼らにとって、大事な金銭に関わることで表計算ソフトを利用するは当たり前、ターゲットや顧客の動向をデータにまとめたり、趣味嗜好や交友関係などをリスト化し、コトをより効率的にするために利用する例も少なくない。表計算ソフトを、ただの罫線をひく表づくりにしか利用できていない職場がいまだに少なくないなか、積極的な活用がすすんでいると言えるだろう。だが、彼らに特徴的なのは、それらが重要な機密であっても、投資をせずにリターンを得られると無料サービスを積極的に利用することだ。

 タダで使えて、特に若い世代ではスマホを持たない人はいない。30代、40代以上のアナログ思考が残る世代には想像もつかなかったような、指先一つでスケジュールの管理から勤怠報告、業務連絡や給与計算まで出来る画期的な便利さはあるが、逆に、それらのデータの重みは「便利さ」の陰で軽くなりつつある。

 便利な新しいツールの使い方がおざなりになってしまっているのは、短期の仕事だから未来を考えないという一面もあるのかもしれない。多少のリスクが潜んでいようと、便利なツールを使って目の前の仕事や業務を切って捨てるようにこなし、何よりも金を稼ぐことが至上とされる業界では、多少荒っぽい使い方も黙認されていたのだろう。しかし、今回の大規模な漏洩トラブルは、いわゆる「普通の」仕事の人たちのものも大量に流出してしまっていた。これは過度な安心感……というよりも、そもそも多くのユーザーの圧倒的な危機感の無さから生じたことだと言わざるを得ない。

 情報が丸見えになってしまったアカウントのほとんどは、騒動が明るみになって慌てて非公開にしたり、アカウントごと消すなどの対応に追われている。しかし、ネット上に一度でも漏れた情報は「二度と回収できない」と言われるように、個人情報が掲載されたページは続々とアーカイブされてゆき、別サイトで閲覧できる状態になりつつある。

 ブログやSNSが流行り出した時も、実名で、かつ身内向けに書いたつもりの日記や投稿が第三者に読まれて、気まずい思いをした……などという経験がある人もいるだろう。SNSについては、最低限の警戒感が浸透したように思われるが、ツールがかわると緩んでしまっているのではないか。ここで改めて、ネット上で公開する、ということは世界に向けて発信している、という事を認識すべきだろう。タダのサービスだと喜んでいても、その代償としてあなたの個人情報はサービス提供者によって全て管理され、時には商目的で利用されることもあるし、サービスの概要をしっかり理解していなければ、今回のような騒動における「加害者」になることだってあるのだ。

 便利さ、手軽さと表裏一体のこうした落とし穴を、いつだって自分に降りかかるものとして、肝に銘じておきたい。

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