それでも社会は多様化に向かっている
世間というのは、他人の心の中も同じだと思い込んでしまうのです。だから会社によっては「謎ルール」が多い。謎ルールに沿うことが同じ世間に生きていることの確認になっているのです。
「世間」とは自分に関係のある人たちだけで形成される世界のこと。学校や会社、隣近所といった身近な人たちでできている世界です。
強い世間ほど謎ルールも残りますから、歴史ある大企業ほど謎ルールが残存しがちです。そんな大企業も潰れたり、吸収合併されたりするようになりました。もし新入社員として入った会社に謎ルールが多かったら、その会社は早晩、つぶれるか吸収合併される可能性が高いです。だから、そんな組織と心中しないようにしないといけない。
潰れない役所や公立学校も場合によっては強い「世間」が残っていることがあり、そういうところに属しているとしんどいと思います。けれど、世界的な大きな流れとして多様性を認める方向に進んでいることは間違いないということは強調しておきたいと思います。選択的夫婦別姓もそうだし、同性婚もそう。「一人ひとりが違っていていいんだ」という方向に世界は確実に進んでいるのです。
ただ、そうであるがゆえに多様化に不安を感じる人たちが自分を守ろうとする動きが反動として起こってきてもいるのも事実です。たとえば学校の校則をつくってきた人たちが、「ブラック校則」だと言われて変革を促されたときに、どんな屁理屈をこねてでも死守しようとすることがあります。変化を認めてしまうと、いままでの自分を全否定することになるからです。
賢い人は、時流を捉えて変化していけるけれど、そんな人ばかりではありません。ましてベテランは難しい。頑固になっている人もいます。そういう抵抗にあって心くじけそうになるけれど、それでも、「社会は多様性を認める方向に進んでいるんだ」ということは心から信じていいと思うのです。それを信じて、お互い生きていこうと言いたいですね。(談)
【プロフィール】こうかみ・しょうじ/1958年生まれ。1981年に劇団「第三舞台」を結成。1995年『スナフキンの手紙』で岸田國士戯曲賞、2010年戯曲集『グローブ・ジャングル』で読売文学賞受賞など受賞多数。主な著書に、『同調圧力』『「空気」を読んでも従わない』『「空気」と「世間」』『鴻上尚史のほがらか人生相談』『ドン・キホーテ 笑う!』などがある。5月15日(土)〜6月13日(日)、六本木トリコロールシアターで新作舞台「アカシアの雨が降る時」を上演予定。