コロナ禍では、多くの演劇、コンサート、ミュージカルが、ライブ配信されるようになった。世界中どこにいても、観たい公演を観られるようになったが、吉田さんは、配信は演劇界の新しい生活様式にはならないと考える。
「配信には、日本中どこにいても舞台をご覧いただけるというよい点もあります。しかし、演劇の充分な代替品にはなり得ない。舞台上の高揚感、緊張、喜び、悲しみは、出演者とお客さまが同じ空間を共にしなければ、お客さまに完全には伝わらないからです。
また、同じ劇場、同じ出演者であっても、今日と明日の『オペラ座の怪人』は、まったく違うものです。この“一期一会”も演劇の魅力の1つ。アーカイブされた配信では感じられません。
いま、多くの人が、未来に希望を持てなくなっている。だからこそ、舞台の上にある、希望に満ちた“虚構”の世界を信じることで、『人生は生きるに値する』というメッセージを、1人でも多くの人に感じていただきたい。それが舞台芸術の使命なのです」(吉田さん)
4月16日。神奈川・相模原市で全国公演の初演を観劇したばかりの女性に話を聞いた。
「この1年間、外に出られなくて、娘に『廃人になっちゃうわよ』と言われるほどふさぎ込んでいました。でも、最近観劇するようになってから、みるみる元気になって。私も“人間に戻る”ことができたみたいです」
舞台の冒頭で、1982年から劇団四季に在籍するベテラン俳優、味方隆司さんは、「今日、私たちは劇場で逢いました。夢は眠りの中だけにあるわけじゃない。劇場でも大きくふくらむ」というせりふを朗々と語り、そしてこう続ける。
「人生を生きるには、夢が必要だ。苦しいとき、悲しいときはここへいらっしゃい。寂しいとき、うれしいときもぜひ。劇場は夢をつくり出し、人生を映し出す、大きな鏡です」
昨年4月7日の緊急事態宣言発出から、本誌が全取材を終えた今年4月19日まで、378日が経過した。その間、中断と再開を繰り返しながら、劇団四季の挑戦は続いた。苦難の連続だった昨日までが、きっと明日からの自分たちを強くすると信じて──。
※女性セブン2021年5月6・13日号