厚生労働省が、ついに医療用大麻を解禁しようとしている。海外では多くの国がすでに解禁しているから、日本の決定は目新しいものではない。コロナワクチンでも見られた「外国の例を見て周回遅れで追随する」といういつもの光景である。海外の事情を簡単にいうと、アメリカのほとんどの州とカナダでは2010年代までに合法化された。ヨーロッパでは、早くから合法だったオランダなどが有名だが、やはり2010年代までに、イギリス、ドイツ、フランスなど、ほとんどの国で合法化された。ほかに中南米諸国やオセアニア諸国、アジアではタイや韓国がすでに合法化している。
大麻に含まれるカンナビノイドには、鎮痛、鎮静、催眠、食欲増進などの作用があることがわかっている。もともと人間は、これと化学的にほぼ同じ成分(エンドカンナビノイド)を体内で作り出して前出のような作用を享受しているとされ、2020年には世界保健機関(WHO)と国連麻薬委員会が、大麻を「乱用され悪影響を及ぼすおそれが著しい薬物」の規制対象から除外する決定をしていた。日本政府の動きはそうした国際的な流れを受けてのものだ。
もちろん各国の規制はそれぞれの国の事情や国民世論などによるから、早く解禁したから偉いというものでもない。日本では諸外国以上に大麻を「悪いもの、危険なもの」としてきた歴史があるため、今回の決定は大いに物議をかもしそうだ。日本で「大麻解禁」の議論をリードした先駆者として有名なのが、元女優の高樹沙耶氏である。高樹氏は2012年に女優を引退すると同時に「大麻は持続可能な暮らしをサポートする大切な天然資源」という主張を展開し始めた。2016年には大麻取締法違反(所持)で逮捕され、有罪判決を受けた。
もちろん日本の法律では大麻の所持は禁じられていたから、その点について罰や非難を受けるのは当然だ。一方で、高樹氏が10年近く主張してきたことが現実になる意味も大きい。改めて高樹氏に今の思いを聞くと、「大麻を悪く書くために私を利用するなら取材はお断りします」と警戒心をにじませながら、こう語った。
「やっと始まりましたか。あまりにも長すぎたというか。私としてはわかりきっていたことなのに、政治もメディアも変わるのにこんなに時間がかかるのか、そういうところが日本をコロナでも後進国と言われるようにしてしまったのではないかと強く感じています。
医療用大麻で救われる人は、めっちゃ多いと思いますよ。大麻草のカンナビノイドという成分は人間がもともと持っているものです。若いハッピーな人は体内で潤沢に作られるから外から摂取する必要はありませんが、加齢とともに欠如したり、過度のストレスで減ってしまった人には必要です。リウマチ、睡眠障害、がんの痛みなどに苦しむ人はもちろん、食欲が出るから予防医療にも役立つ可能性があります」
そのうえで、日本の大麻解禁が諸外国から大きく遅れた点について、高樹氏はメディアにも問題があったと苦言を呈する。
「私は未来予想図として、こういう世の中になるだろうと思って声を上げたわけですが、力不足でご理解を頂けず、挙げ句には“自分だけ使っとるやんけ”みたいになって悪評が出てしまった。その点は反省していますが、国やメディアのこれまでの姿勢も問われるべきではないですか。アメリカもカナダも、タイだって合法化しているなかで、日本のメディアは思考停止していたように見えます。
これまでのように、メディアが国民をコントロールしようとする報じ方は古いと思うんです。若い人たちはもうテレビも見なくなって情報源を変えていますから、そんなやり方を続けていると次の時代に葬られていきますよ。国民や国が幸せになることを目指して動かない企業は、メディアであっても淘汰されていくと思います」