ある企業からは、「五輪中止はもうないのか」という質問まで飛び出したが、組織委の答えは「最後の最後まで分からない。大会の最中であっても中止はあり得る」という驚くべきものだった。
前述した本誌・週刊ポストのスポンサー71社へのアンケートで目立つのは、慎重な言葉選びで賛否以外の見解に終始する企業だった。なかには他社がどう回答するかを“問い合わせ”してくる企業もあった。
世論が気になり、「賛成」「反対」を明確にできない苦しい立場は、議事録からもにじみ出ている。企業がこんな本音を吐露する場面があった。
「一般客のチケットが削減される一方で、パートナーのチケットが有効だったら、一般客に行き渡らなくなるケースが出てくる。メディアでそのことが報道される可能性があり、世論から批判されるのが心配だ」
「組織委員会とパートナー企業で越えなければならない共通の壁は、世論だ。中止すべきだという世論を逆転させる必要がある」
世論に「耳を傾ける」ではなく、「引っくり返すべき」という発想自体、“五輪ムラ”が国民とかけ離れた場所になっていることを物語る。
「Tansa」の渡辺周編集長はこう語る。
「スポンサー企業の懸念は東京五輪で儲けるチャンスを失うことだけでなく、五輪反対の世論が増す中で、反対しないことで企業のブランドイメージが失墜することです。スポンサー企業の担当者を取材しても、そのことを非常に気にしていた。
五輪を強行したい菅政権やIOC、そして“お上”につき従うしかないスポンサー企業の姿は、戦争に突入していった日本と重なります」
組織委に議事録の内容について問い合わせたが、「パートナーとは日頃からコミュニケーションをとっており、ミーティングも実施しております。実施日程や議題は公開する予定はありません」(戦略広報課)との回答だった。
菅首相が唱える「団結の象徴」としての五輪など夢物語である。
※週刊ポスト2021年6月18・25日号