実は広津展で再会した時、彼には恋人がいて、前妻で写真家の神蔵美子氏、その再婚相手の末井昭氏とも親しくつきあっていた。

「当時は『靖国』も『慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り』も出る前ですが、私は誰とも似ていない彼の才能に惹かれてはいたと思う。偶然、再会した時期、彼の周りには強烈な渦潮が発生しているようで『何だか大変そうで私には無理』って友人に話してるんです。その渦に突然呑みこまれ、そこからは流れに身を任せてしまった。どう抗っても会う時は会っちゃうので」

 1998年、2人は同居を開始する。彼が『靖国』や『変死するアメリカ作家たち』を形にする過程や、『東京人』時代から敬愛する山口昌男氏や常盤新平氏との交流。また〈『靖国』は、さまざまな書物や雑誌を渉猟し、その時代を生きた人たちが見ていた景色、場所に流れていた空気やにおいまで再現しようと試みている〉といった作品評までが坪内氏の人物像をそのまま物語る。

イイ感じのじいさんになれたはず

「中央より隅っこの、細々した断片をかき集めた中に、明治なら明治という時代を彼は見出し、歴史感覚自体、私は彼に学んだんです。以前は今も昔も一緒くたの、歴史音痴だったので(苦笑)。

 彼の死後、改めて作品を読む中で、歴史とはこういうものかと教えられ、昔から死亡記事を書く人に憧れていた彼が死についてここまで考えていたんだと驚きもした。別に自殺願望があるとかじゃないんです。自分も100歳まで生きて、芥川や谷崎のことを好き放題に書いた小島政二郎みたいになってやるとも言っていたくらいなので。

 ただ彼の生き方と作品が妙に重なるところはあって、漢文脈と英文脈を両方学んだ漱石たち7人男のように、彼も歴史と英文学を学び、最後は変死してしまった」

 本書では故人が愛し、憧れた古き良き文壇の残り香が、ふとした言葉のやり取りに感じられる。例えば2000年に新宿でヤクザ風の男に暴行を受け、内臓破裂で2か月入院した顛末を描く6章「死にかけた日」では、野坂昭如氏の見舞文が必見。〈かつては三島由紀夫が文壇で一番殴りたくなる顔で、それを継いだのが私ですが、もう小生の時代ではなく貴方の時代なのですね〉!!

「一々書き留めたくなるくらい言葉が豊かなんです。ただ酔っている時の本人は一切記憶がなく、いつも私だけが怒っている(苦笑)。そんなことが続くうち、彼が軽い感じで言ったんです、〈ぼくが死んだらさびしいよ〉って。だから優しくしてってことなんでしょうけど、なぜあんなに何度も言ったのかなあ……」

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