自作への悪口も、エクレア工場やテレビの美術制作会社で働いていたときのキツい経験も、燃え殻さんから聞くと、苦さの中にどこかおかしみのある話に変わる。
テレビ番組のテロップづくりで締切に追われた経験から、2週間ぐらいかかる単行本のゲラの修正を1日で戻して編集者に「ちゃんと考えてください」と言われた話、新規事業の飛び込み営業で渋谷のビックカメラに行ってしまった話など、インタビューも、ラジオの深夜放送を聴いているようだった。
2作目の小説を書くとき、「自分はどうやら子供がいる人生を送れそうもない」ということが頭にあったという。
「前に、エラい人たちが、子供を持たない人間のことを『生産性がない』とかって言ったじゃないですか。『生産性がない』のファイルに入れられた人間が、社会とどう折り合いをつけて生きていくかを書こう、って。もし別の生き方をしてたらどうだったんだろうと考えたときに、『これでよかった』だけではない、違う人生もあったのかな、という思いも、正直、ボクにはあります。
あと、ボクの年齢もあるんですけど、周りで亡くなった人が何人もいて。先週会った感じの生々しさのまま、ずっと自分の中にいる。いま生きているけどもう会わないだろうという人もいて、亡くなった人より感覚的に遠く感じたりもするのがほんとに不思議で。自分の中に亡くなった人がいて、アイツにみっともないところ見せられない、みたいな気持ちはちょっとあるんですよね。小説の中の大関というキャラクターを読んで、読者のかたにも大切な誰かを思い出してほしかったりします」
【プロフィール】
燃え殻(もえがら)/1973年、神奈川県横浜市生まれ。小説家、エッセイスト、テレビ美術制作会社で企画デザインを担当。ウェブサイトでの連載をまとめた『ボクたちはみんな大人になれなかった』を2017年に刊行し、ベストセラーに。同作は、2021年秋、Netflixで映画化(森山未來主演)。ほかに著書に『すべて忘れてしまうから』『夢に迷って、タクシーを呼んだ』『相談の森』がある。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2021年8月12日号