コロナ禍の「癒やし」に寄り添うビール
昭和レトロブームにあやかろうという狙いか、このところ復刻版商品も相次いでいる。
筆頭が、アサヒビールが9月14日から発売した「アサヒ生ビール」(アルコール度数は低めの4.5%)だ。缶デザインに不死鳥のフェニックスを描いたことから、通称「マルエフ」とも呼ばれている。
この「マルエフ」が登場したのは1986年。翌1987年に大ヒットとなる「スーパードライ」が発売されたため、その後は細々と飲食店向けの樽生ビールとして供されただけで、世間的には消えてしまった、いわば幻のビールに近かった。
その「マルエフ」を家庭用の缶商品として復刻販売したわけだが、狙いについて、アサヒビールで専務マーケティング本部長の松山一雄氏は、商品発表会の際にこう語っていた。
「『スーパードライ』の辛口でキレのある味わいは、活力や元気の、いわばエナジー系イメージ。対して『マルエフ』はまろやかさが際立ち、優しさや温もりのイメージと好対照です。ですから商品的な棲み分けも明確で、ポテンシャルがあると判断しました。
また、缶デザインのアサヒ生ビールの文字フォントも昭和時代のものを採用し、コロナ禍で癒しやリラックスさを求めるお客様に寄り添える商品と自負しています」
ちなみに、「マルエフ」は発売3日後、生産が追いつかず早々に一時休売となってしまったが、発売初日、スーパーでの特設売り場のディスプレイも、やはり昭和の雰囲気を色濃く演出するものだった。
その後、1995年に「アフター9のビール」という位置づけでスマッシュヒットとなった、黒ビールの復刻商品「アサヒ生ビール黒生」も11月に追加販売されることになっていたが、アサヒは「マルエフ」の再販を優先。
その結果、11月24日から「マルエフ」の販売を再開し、「黒生」のほうは発売延期となった。ネット通販では「マルエフ」の価格が一時期高騰するなど、“転売ヤー”が介在するほど人気化した側面もある。