「失敗」と「成功」は糾える縄の如し
──失敗がもっと気軽に語られるようになると、失敗を恐れないマインドも広がるように感じます。
荒木:そのためには一つ作法があって、戦犯探しをしてはいけないです。たとえばサッカーの日本代表が負けると、どの選手が悪かったとか、誰と誰を代えればよかったとかいう話になりがちですよね。そういう話をしたくなる気持ちは僕もわかるんですが、属人性を排除して、構造的なところまで下りていかないと本当の失敗分析にはならないし、失敗が語られるようにはならないと思います。
──失敗を前向きに受け止める土壌も大切ですね。
荒木:世の中で騒がれるような大きな失敗は数が限られますが、もう少し小さい失敗、いわば「失敗もどき」はビジネスの世界でたくさん起きているはずし、必要でもあります。「失敗もどき」をどの段階で見つけ、属人的ではなく構造的に読み解き、改善していけるか。それが企業の成長につながっていくと思いますね。
──ちなみに荒木さんは失敗されますか?
荒木:こんな本を書いていると「荒木さんは失敗しないんですよね」と言われるんですが、もうね、失敗の連続。だからこういう本を書いているんです(笑)。
これまでずっと「失敗」という言葉を使ってきましたが、失敗って抽象度の高い言葉なんです。前作(『世界「倒産」図鑑』)で書いた「倒産」は定義が明確です。対して失敗は、売上目標の50%以下だったら失敗なのか、何年以内に目標をできなかったら失敗なのか……。何らかの定義づけをすることもできるのですが、今回は、その辺りをあえて曖昧にしました。というのは、失敗って、単にある時間軸で切り取ったときの評価だからです。
──確かに、失敗がのちに成功を産んだのなら、それは失敗ではなかった、とも言えます。「禍福は糾える縄の如し」といいますが、失敗と成功も糾える縄の如し、と本書を読んで感じました。
荒木:短期で切り取ってみるとネガティブなことも、長期で見れば、評価はいかようにも変わるんですよね。それは僕自身の人生を振り返っても、そう感じます。失敗は必ずしも避けることではない、というメッセージをこの本から感じてもらえたらうれしいです。
◆荒木博行(あらき・ひろゆき)
株式会社学びデザイン代表取締役社長。住友商事、グロービス(経営大学院副研究科長)を経て、株式会社学びデザインを設立。フライヤーやNewsPicks、NOKIOOなどスタートアップ企業のアドバイザーとして関わるほか、絵本ナビの社外監査役、武蔵野大学で教員なども務める。著書に『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)、『見るだけでわかる! ビジネス書図鑑』シリーズ(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『世界「倒産」図鑑』『世界「失敗」製品図鑑』(日経BP)など著書多数。