川淵:いやいや、そんな大したもんじゃないよ。だけど一つ言えるのは、そこに「大義」があるかどうかという問題だよね。僕としては、女子プロサッカーリーグはなかなか難しいミッションだと思ったのも事実だけど、成功させようと努力をしている人たちがいるのもまた事実。
実際にうまくいくかはわからないけれど、少なくとも僕が決めることではない。未来を支えていくのは、若い人たちなんだから。そもそも女子サッカーは僕のためのものではなく、プレーをする若い女性のものですからね。だから物事を進めるときに一番大事なのは、「大義があるかどうか」だと思うんです。
その意味で言えば、外部から招聘された女性理事として、新リーグ法人準備室長・審査委員長として改革を進めようとした谷口さんをラグビー協会が最後まで守り切れなかったことは、「大義があったかどうか」を問われるところだよね。
谷口:私なりに努力したつもりですが、やはり「孤軍奮闘」という感は否めませんでした。
ラグビー協会に、本当に強い改革の意志があったのかどうかも疑問です。私たち新リーグ審査委員会が実施した公平かつ客観的な審査も、最後の最後に「企業の論理」で跳ね返されてしまいましたし、ラグビー協会にも「プロリーグとして単独できちんと収益を上げていこう」という気概は見られませんでした。
川淵:門外漢の僕には詳しいことはわからないけれど、現場の真っ当な改革案が、業界の古い慣習でうやむやにされてしまう──それはラグビー界に限らず、大なり小なりどこの組織にもあることです。だけど、そんな組織でもたまに突破口を開く人間が出てくるんだよね、私はその役目を谷口さんに期待していたからこそ応援した。
ただ、その人によっぽどの力がないと重い扉が開かないのも事実。正直なところ、どんな革命でも、成功させるにはそれをサポートする後ろ盾が必要なんだよね。きっと外部理事の谷口さんには、それだけの「権力」や「後ろ盾」が与えられなかったんだと思う。それが厳しいところだったね。
僕がバスケットボールのBリーグを作った時には、『FIBA(国際バスケットボール連盟)』から日本スポーツ協会、スポーツ庁などが全部僕の後ろについていた。だから既存のリーグの関係者に対して「あなたたちは今まで何やってたんだ!」とか「言うことを聞かないとみんなぶっ潰すぞ」くらいの強気なことが言えたんだけど(笑)。
谷口:そうですね。私に与えられた権限や、予算や人員は本当に心細いものでした。協会のなかには「お手並み拝見」というか「やれるもんならやってみろ」という冷たい視線もあって……。そんななか、川淵さんの存在は本当に私の支えでした。ラグビー協会から完全に外れることになったとご連絡した際にも「かける言葉がみつからない」と返してくださって。
その上で、「いろいろあるだろうけど、毅然としていなさい。とにかくあなたはベストを尽くしたんだから」とお電話で温かく励ましてくださったことを、ずっとその後の心の拠りどころにしてきました。