「この大銀杏の話も含めて本作はフィクションなだけに、クラブコスメチックス社のトレードマークである双美人や商標までも、どう物語的に解釈するのかについて、結構悩みました。

 でも当時の写真を見ると、太一さんはウソやろってびっくりするくらいにイケメンなんですよ。しかも資料を読めば読むほど、どこをどう掘っても誠実で研究熱心で、『出来過ぎやろ』って思うくらいな人。そうしたらもう、何を書いてもフィクションに見えるんかなって開き直れましたね(笑)。

 例えば、そんな完璧な人なら必ず自社の商品は自分でも試してみるだろうから、双美人の片方が化粧をした利一かもしれないとか。後に良質な洗い粉や〈無鉛白粉〉を開発する利一がハナと2人でお化粧するシーンなんかもあっていいかもなって、楽しみながら書かせてもらいました」

 やがて大分の薬種問屋・熊谷商店の支店長となって帰ってきた19歳の狸の子と、花隈有数の名妓に成長したハナは再会。大銀杏の下で夢を語り、心を通わせるが、当時では花街ならずとも〈十六は嫁ぐ歳〉だ。ハナの旦那候補には灘の大地主〈庄松〉や九州の炭鉱王とも噂される粋人〈霞翁〉らが名乗りを上げ、後に〈永山心美堂〉を設立する利一とはいえ、簡単に結ばれようはずもないのだった──。

自分なりの人生を選択できるのか

 中山ならぬ永山心美堂はクラブ洗粉ならぬハート洗粉を発売、いきなり年400万個の大ヒット商品となるなど、時代を席巻。またフランクリンの十三徳という信念に感激した利一が、〈真心〉を商売の基本に据えたり、本作のシンボルツリーである大銀杏の葉がよく見るとハートの形だったりと、単にクラブをハートに変換しただけとは思えないほど、細部が冴える。

「ハートについては、悩んでいたらクラブコスメチックスさんが『ハート化粧品』という商標を持ってることを知った。後から揉めたくもないし、ここは素直にハートでいこうと(笑)。

 利一とハナの恋を絡めたのにも理由があって、それこそ私たちは朝ドラで何十年と成功者の話を観てきたわけですよね。『マッサン』然り、『まんぷく』然り。大抵は男性が成功し、女性が支える話です。そんな話は令和の時代には古くないかなって思ったんです。それらは確かに史実ではあったやろうけど、この2人には違う関係もええかなって。その答えがこの、どちらが欠けても成立しない関係だったんです。

 利一は男だから貧しいなりにチャンスを与えられた部分はある。その成功をハナは〈いやや〉という拒絶の言葉すら持てずに生きてきたからこそ祈る。彼女は彼女で自分なりの人生を選択できるのかという、自立の物語でもあるんです」

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