こと人生に関して拒否権や選択肢がなかったり、〈『知らない』ことが不幸の始まり〉とあるように、いつの時代にも十分に知り、選ぶという、不幸をかろうじて遠ざけるための行為ができない人が多いという。
「人生最初期のイヤイヤ期で拒むことを覚えるくらいに拒絶は大事なことやのに、成長するほど嫌って言えなくなるんですよね。『知る』に関しては、太一本人が良質な商品も知られなければ意味がないと広告の重要性に着目し、新しいことを次々にやった人なんです。確かに今は情報ソースも増え、何でも調べられるようにはなった。ただ情報が多すぎて選べない事態も起きていて、どちらも適正に知らない点では同じだと思うんですよ。
今作は明治の話ですが、知らなかったり拒めなかったりして苦しんでいる人は現代にも大勢いる。しかもそれを運で決められるのは最高に不幸だと思うので、せめて風穴を見つけてもらえる物語を、私はエンタメに書いていきたいんです」
稀代の成功者のビジネス譚、はたまた女性の覚醒や対等な恋の物語と、幅広い読み方のできる大河小説である。
【プロフィール】
高殿円(たかどの・まどか)/神戸生まれ。武庫川女子大学文学部卒。2000年に『マグダミリア 三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。2013年『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞。『カーリー』シリーズや『シャーリー・ホームズ』シリーズなど数々の人気シリーズを持ち、『トッカン―特別国税徴収官』や『上流階級 富久丸百貨店外商部』などドラマ化も多数。著書は他に『剣と紅』『政略結婚』『グランドシャトー』等。166cm、O型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2022年4月1日号